栄養かわらばん第6号
1999年3月発行
発行:日本臨床・公衆栄養研究会
発行者:井上 一也
練馬区栄養士会発足について
会長 井上正子
栄養かわらばんも6号となりました。広報部の方々の献身的努力での継続的な発行に感謝しています。
新聞といえば、今度練馬区栄養士会でも新聞を作り、その名の通り「ねりえい会報」として4月に創刊することになりました。依頼された祝いの原稿を昨日渡し終えたところです。この機会に、当会の皆様にも練馬区栄養士会設立のいきさつをお話ししておこうと思います。
「"練馬区には栄養士会が何故無いのでしょう?
欲しいのですが…"と相談を受けたので、"それなら地元に最適の人がいるではありませんか"と、お連れしました」とチーム医療の梅本さんが練馬区在住の若い栄養士さんを伴って、日本医療栄養センターに訪ねてこられたのは、平成9年の秋でした。状況として栄養士会の設立が必要なことは確かでしたが、こうした会の立ち上げは何かと大変ですし、私としてはこの日本臨床公衆栄養研究会のほうこそ大切にしなければならない状況にありましたので、躊躇も相当で、なんとかお鉢を他に回そうと試みをしましたが、ある意味で以前と同じ展開になりました。35年前、練馬区民になりたての私も同じ想いで区役所や保健所に問い合わせました。公的機関その他でも、作る意志のないことが判り落胆しましたが、そのうち先輩の誰かが作ってくれる筈だと決めて、放念することにしました。
今回こうした大昔と同じ経過をたどりながら、"今度は私が先輩なのだ、ここで逃げ出し、あと10年20年先に、まだ組織が出来ていないならば、練馬区の栄養士活動の芽を育てなかったことになる。その損失は大きく、責任も重い"と感じました。
というのは第一に人々の健康作りを担う職種にある栄養士は自身の仕事を全うすると同時に、地元の人々に役立つ活動を専門職として行う義務があるように思われます。第二に地域に医師会をはじめとした専門職の団体があるように、栄養士達も地域に役立つ組織的な活動を行うには、纏まりのある団体としての働きが大切ですし、地域内の各機関に協力することは、専門職の使命として他の専門職と共に地域への責任の一端を担うことになりますのでおろそかにしてはいけないのです。
幸い練馬区栄養士会の立ち上げは顧問(井上一也)はじめ多くの方々の協力を得て、会則等もとどこおりなく整い、会の名称も練馬区の栄養士なら在宅者も勤務者も全てが入会できるように「練馬区栄養士会」と決めました。
発会式には岩波練馬区長はじめ多胡保健部長、辻医師会長、安西元厚生省栄養課長、藤沢日本栄養士会長、香川女子栄養大学長他の要職の方々にお祝辞を頂き順調なスタートを切ることが出来ました。
その後2年に満たない期間ですが、会則目標である「練馬区民への栄養からの健康作り支援と会員相互の親睦と技術の向上」に沿って活動し、@医師会とのアトピー栄養相談、A青少年会館での料理指導、Bデイサービスセンターでの料理指導、C下石神井地域の高齢者の昼食会、D高齢者介護者への短時間メニュー等を行い、好評で継続しており、さらに今年は小・中学生の料理教室が加わることになりました。
会員は現在35名で、殆どが役員を兼任し,活き活きと会を運営しています。
5月には第3回総会を開催しますので、新会員も増え、平成11年度はより充実した地域活動が展開されそうです。こうして歩きはじめている練馬区栄養士会に私は近頃ホッとしています。
もう暫くの間、両方の会長を兼任することになります。双方共たくましく成長してもらいたいと願っています。
講演会「骨粗鬆症と栄養(その1)」
東京老人医療センター院長 医学博士 折茂 肇
従来、腰や背中が曲がるのは、単に年のせいと考えられてきましたが、最近では「骨粗鬆症」で背骨がつぶれるためおこる「病気」と捉えられるようになりました。そういうおばあさんの骨の断面をみると、骨の構造が細くなって、折れているマイクロフラクチャー(微細骨折)が多数みられ、骨折はその結果であるといえます。骨はコラーゲンという基質(蛋白質)に骨塩(カルシウムやリン)の結晶が沈着して、それを合わせて「骨量」としていますが、骨粗鬆症はその両方が減るわけです。骨塩のみ減る場合は骨軟化症(くる病)と呼ばれ区別されます。
骨量のピークは20歳代から45歳くらいまでですが、その後は誰でも老化に伴って減少傾向を示します。骨粗鬆症というのは正常の老化現象を超えて減ってしまった場合をいいます。ピークの70%未満だとと危険域とされ、90%以上の確率で骨折の可能性があります。骨量減少で正常と骨粗鬆症との間にある予備軍は、骨折してしまってからでは遅いといえますので、早めの予防が必要です。
骨粗鬆症は原発性と続発性に分けられる
続発性とは、バセドー氏病や副腎皮質ホルモン使用の場合であり10%程度です。原発性は退行性(閉経後、老人性、特発性)が90%を占め、これが問題なわけです。
96年には1千万の患者数であり糖尿病より多く、90年が5百万ですから6年間で2倍に増えています。一番怖いのは「大腿骨頸部骨折」です。87年では、5万3千人、92年では7万7千人と増え、治療費は1億3千万円(寝たきりは含まず)です。寝たきりの原因は、70%が脳卒中、20%が大腿骨頸部骨折ですから、予防が重要視される所以です。
骨粗鬆症は典型的な老年病
骨粗鬆症の発生頻度は女性が圧倒的に多く(60歳以上)、男性は80歳を超えてから出てきます。初期症状としては、
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@立ち上がる時に、背中、腰に痛みがある
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A重いものを持った時に背中、腰に痛みが出る
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B背中、腰が曲がってくる
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C身長が縮んでくる
BR>骨折にも特徴があり、転んだ時に大腿骨頸部が折れることが最も問題で、これは即、寝たきりになってしまいます。骨折は腰椎、前腕を含めた3カ所に多くみられ、転ばないことが大切だといえます。
骨塩量と骨折の発生には高い相関が認められています。骨の硬さには、ピークの骨塩量と骨塩量の減少速度が関係します。ですから、できるだけピークの骨塩量を高めることと、減少速度を遅くすることが大事です。
特に若い女性のダイエットはピークの骨塩量を低下させることが問題視されています。減少速度に関わる因子としては、加齢、閉経、栄養、環境、遺伝子などがあります。
骨粗鬆症は骨の代謝異常、全身性の疾患
骨は壊れて吸収され、新たに形成されますが、その形成速度が、吸収に追いつかないともろくなるのです。骨には3種類の細胞があり、破骨細胞が骨をかじり、骨芽細胞が骨を造り、骨細胞が情報伝達の役目をしています。(これを、骨の代謝=リモデリングと呼んでいます。)
骨形成を促進させる因子としては、BMP、E2(女性ホルモン)などが発見されており、骨の増殖促進が注目されております。また、吸収抑制因子なども発見され、それが薬になるなど治療方法は進歩しています。
最近の骨量減少の因子の研究では、50%が遺伝に起因することがわかってきました。その他の関係因子が運動とか、カルシウムだといえます。危険因子としては、早期の閉経、加齢、痩せている、家族歴(母親の骨折)などに関係が深く、それと、遺伝子、ライフスタイル(運動不足、カルシウム不足、アルコール、コーヒー多飲、喫煙、日光照射不足によるビタミンD不足、)、病気(婦人科系疾患、胃摘出、乳糖不耐症、糖尿病、甲状腺機能亢進症、副甲状腺機能亢進症、腎臓疾患)などの因子が関連しています。50%の関連があるとされる遺伝子の研究では、IL6(第7染色体)という遺伝子が関わっているのではないかということがわかってきており、今世界中で精力的に研究されています。
(次号に続く)
講演会「栄養アセスメント(その2)」
聖マリアンナ医科大学病院栄養部長 医学博士 中村 丁次
改訂第6次栄養所要量の概念
第6次栄養所要量の改訂委員会が11月に結成され、今年から来年にかけて栄養所要量が出されますが、今までと全く変わった所要量となります。 私も委員の一人であり、今度の改訂版では、「今までの子供だましのような素人でも使える所要量にしないで欲しい、栄養学をきちんと学んだ専門家や栄養士しか使えない高度な概念規定にして下さい」と言ってあります。
委員の先生方が合意している方向の概念だけをお話ししますと、科学的データがないのでお流れになる点もあるかもしれませんが、現時点で合意している内容は、日本をはじめアメリカやカナダでも共通しています。
まず、栄養と健康状態を曲線図表で示すと、次のようになります。
栄養の最小必要量に安全率を掛けて、最少栄養量を決めるという点は従来通りですが、今回は上限値の過剰栄養を示すということが課題となっています。例えば、カルシウムを摂るという時に、どこまでの量を摂ればよいか、また摂り過ぎるとはどこからをいうのか、その基準値を定めようとしています。今までのカルシウムの摂取上限値は、2.5gの数字が出ているので栄養士はその数値に基づいて、各個人に栄養アセスメントを行って、その人に適正な栄養量を決めることになります。
上限と下限の幅を科学的に決めて数字で示しまから、栄養士は個人ごとの栄養状態を見て、個人別にそれぞれの栄養素について適正な所要量を診断して指導することになります。このような栄養診断の仕事ができれば、今のように単純な所要量を医師の指示だけで決めるのではなく、栄養士の仕事の重要性が明確になってきます。
21世紀の方向性がこのように行くかどうかは、委員の先生方が決めることになりますが、アメリカやカナダではその方向をとるようです。具体的な例を挙げれば、アメリカの糖尿病学会における指示栄養量は、タンパク質15%、脂質25%……などと、10年ごとに示されますが、最近、学会が決める指示栄養量は、タンパク質15%だけであり、脂質や糖質などは白紙で出されます。これは学会が始まって以来のことで、糖質と脂質については患者に対して栄養アセスメントを行いその人の栄養状態によって決めなさいということです。そして、同じ糖尿病患者であってもコレステロールの高い人・低い人、中性脂肪の高い人・低い人、太っている人・やせてる人など様々なので、糖尿病患者の全てをカバーするような栄養量は決められないと書いてあります。つまり、糖尿病患者の栄養状態は個々に違いがあり、治療の段階もバラバラなので、一律には決めつけられないということです。このような考え方は、今後は糖尿病だけでなく、他の疾患や健康な人に対しても拡がってゆくものと思われます。
日本人の栄養所要量について
ある特定集団の栄養状態を見て、その人に対する適正な栄養所要量をプランニングする場合の考え方は、抜本的に変えられて行くことになります。
そこで栄養アセスメントができるかできないかは、これからの栄養指導の根幹に係わります。
私たちは、食事によって約60%の糖質、さらに約15%のタンパク質、約25%の脂質などを消化吸収し、肝臓で分解した栄養素を生体全体にばらまいていますが、食べ物の持っているタンパク質がそのまま人間のタンパク質になるわけではありません。例えば、豚のもも肉を食べても我々が豚にならないことでも明らかなように、食べ物の持つタンパク質は消化されるとアミノ酸に変わり、アミノ酸を組み合わせて自分に必要なタンパク質に変えています。従って、ホルモンを食べてもホルモンにならず、酵素を食べても酵素になりません。
昔のように栄養失調の時代であれば、生体の必要栄養所要量を食べ物の栄養素に反映させ、栄養失調を解消するために栄養指導をするという今の方法でも通用しました。
しかし、「この人の栄養状態を変えなければ、生活習慣病を防ぐことができない」という場合、そのひとの栄養状態に影響を及ぼす要因は、食べ物だけではなく、遺伝的素因・運動・ストレス・栄養素処理能力(同じタンパク質を摂っても栄養効率に個人差がある)などがあります。従って、栄養の摂取条件を良くしてもその人の生体内での栄養状態をダイレクトに良くすることができないことになります。
臨床栄養の進歩について
生体の栄養状態をみる方法を確立するために、20年間に渡って「栄養アセスメント」の研究がなされてきました。最近における臨床栄養学の進歩は次の4つの領域に示されています。
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疾病時の代謝異常の解明
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栄養状態の診断法の体系化
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栄養補給法の体系化
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特殊栄養食品・栄養剤の開発
今までは、健康の時と病気の時を分けてみた場合、食べる量と排泄する量についてしか分かりませんでしたが、今は細胞のレベル、遺伝子のレベルで病態が分かるようになってきました。
糖尿病でいえば、過食すれば血糖値が上がり、食事療法をすれば下がるのはなぜかについて、細胞の内と外とのレベルで分かるようになりました。
2)「栄養状態の診断法の体系化」について
これは栄養アセスメントの問題です。今まで栄養士がやっていることは、食べ物の診断・食事の診断です。これから学ぶべきは人間の側に立った栄養状態の診断です。
これは4つの領域にまたがる診断であり、環境問題と似ています。初めは川が汚染されたり、空気が汚れたりなど部分的な公害として発生しました。そして、環境全体として環境アセスメント法案が打ち出され可決・施行されるに至りました。
食べ物の場合は、摂取量を計算すれば栄養状態が分かると栄養士は主張し、医者の方は血液検査をすれば栄養状態が分かるので食べ物の摂取量を計算しなくてもよいとし、「よく食べて太っていれば栄養状態は良いのだ」と乱暴な話をする医者もいます。しかし、その両方とも象の足を診るだけで象全体を見ていないことに変わりありません。
血液検査のデータをみても、栄養状態が分かるとは言えません。例えば、カルシウムをはじめ恒常性を維持する栄養素はたくさんあります。カルシウムの血中レベルが正常値を保っているのでカルシウムが充分あるとは言えません。なぜなら、カルシウムが減少すると自分を犠牲にして骨からカルシウムを導引して恒常性を維持します。タンパク質の場合も同様に筋肉を犠牲にして血中のタンパク質量を維持しているのです。
人間全体の栄養状態をみるためには、体内を巡っている栄養素、外から入ってくる栄養素、出て行く栄養素などを総合的に見ることが必要です。
3)「栄養補給法の体系化」について
人間の生体内に栄養素を入れるルートは、3つあります。一つ目は「経口栄養法」であり、普通に行われるように口から栄養素を入れる方法で、食事療法の概念がこれに当たり、口から食べて消化吸収して体内に栄養素を入れます。また、「チューブ栄養」といってカテーテルを口を通さず鼻腔から直接に消化器官に入れる方法もあります。
二つ目は、「経腸栄養法」といって、内視鏡を使ってお腹に穴を空けておき、普段はボタンのようなもので塞いておき、食事時にそこから栄養素を体内に入れます。この方法を行っている生活でも、風呂に入れるし、自由行動もできます。
三つ目は、「静脈栄養法」であり、一切消化器官を使わずに心臓に向かって走る血管である鎖骨下静脈を使って、一日に必要な栄養素を血管内に注入します。現在では、この治療法は在宅でも可能になっています。チョッキの中に栄養素を入れカテーテルで身体と繋ぎ、一生涯に渡って口や消化管を使わずに栄養補給をしますが、仕事にも復帰できます。この様な高度の栄養管理を受けている人でも在宅で生活できるようになっています。
今までは、経腸栄養法や静脈栄養法は、高度な医療設備の整った病院で行われていましたが、今はそういう人々が地域で暮らし、在宅栄養管理を受けています。それを誰が管理するかといえば、医療施設にいる栄養士は、それは在宅栄養士の役目であると言い、在宅栄養士の方は私たちはそんな高度な医療知識や技術を持たないし、いまさら高度な難しい勉強をするのはイヤだと拒否しています。では、誰が管理するかといえば、今の段階では看護婦と医者であり、栄養士はほとんど関わっていません。
4)「特殊栄養食品・栄養剤の開発」について
栄養士の考えることは、「自然界に存在する食べ物をできるだけうまく組み合わせて、調理・加工して栄養にする」ということです。しかし、自然界に存在している食べ物は、人間の食べ物になるという合目的性を持っていないので、いろいろな矛盾を来しています。
「食べ物はできるだけ人間の手をかけないことが良く、加工食品は良くない、自然の食べ物がいいのだ」という考え方が、10年・20年に渡って日本中を駆けめぐっていました。今でもそれを信じてそうした運動をしている人もいます。ある面では真実ですが、冷静に考えると"食べ物"と私たちが言っているものは、自然界に存在する動物や植物であり、それらを勝手に殺して人間側で食べ物と言ってるだけであり、向こう側から言わせると、食べ物ではないということになります。
豚は豚肉になるための豚ではありません。豚肉を食べ過ぎてコレステロール値が上がったとしても、豚が悪いわではありません。豚は必要性があってあれだけの飽和脂肪酸を体内に貯えているのです。人間の健康を害したからと言って豚のせいではありません。
つまり、私たちが言っている自然界の食べ物は、本来的には人間のために存在しているのではないから、その摂り方を間違えると矛盾が生じ、健康を害することになるのです。
もう一つ重要なことは、人間は"食べ物"と"毒物"を分析し、「これは人間に安全で有効なもの」「これは食べてはいけないもの」と分けてきました。食べ物と毒物との境目についての経験的な判定基準は、「食べてお腹が痛くなった」「食べて下痢をした」「食べて死んだ」などの急性中毒になったものは食べないようにし、それ以外のものを"食べ物"として分類してきた分けです。
しかし、これは「急性中毒になるかならないか」で分けただけであり、慢性毒性については無視して抱え込んだままと言うことになります。従って、その食べ物を5年、10年と食べ続けてガンになるとか、動脈硬化になるとかと言うことを認めて、食べ物に入れていることになります。とくに、山菜類は非常に強い発ガン性物質を持っていますが、今の健康を害さないので毒物にしませんでした。
このように自然界に存在する食べ物は、必ずしも安全ではないのです。人間にとって都合の良いようにはできていないこを認めるのが最近の学者の食べ物に対する考え方です。
従って、最近ではそうしたことをできるだけ除去して合目的性の高い加工食品を作るようになってきました。「コレステロールの上昇しない油や肉」「低タンパク質・低カロリー食品」などの特殊栄養食品がそれにあたります。それによって、今までの食事療法の限界が超えられ、今までの低タンパク質食品は食べられたものではなかったのに、食べ易くなり、いろいろな食事療法ができるようになりました。
例えば、肝硬変の患者に対しては、バリン、ロイシン、イソロイシンという3つのアミノ酸を多く与えると延命効果があります。今まで肝硬変の患者は生きられなかったのですが、今では、5年・10年・20年と生きられるようになりました。
一つの理由は、肝硬変患者の栄養状態が良くなったことです。肝硬変患者に日常の食品では摂るのは不可能な3つのアミノ酸を特殊栄養食品を与えるようになったからです。(次号に続く)
センスアップクッキング「ワインに含まれる機能成分(最終回)」
メルシャンワイン中央研究所 佐藤 充克
赤ワインの効果についての試験結果
種々の飲料の中で、赤ワインは飛び抜けてポリフェノールが多く含まれています。身近に接する緑茶はカテキンを含みガンの予防になると言われ、茶葉にも10〜15%のポリフェノールが含まれています。そのまま食べれば効果がありそうですが、お湯で出すと抽出率もあってポリフェノールの数値はあまり高くありません。
それでは赤ワインを飲むと実際に利くのでしょうか。Maxwellらは、ボランティアに赤ワインを投与し、世界で初めてヒトの血液中の抗酸化能を測定しました。健康な学生10名(男子5名、女子5名、平均年齢22歳、平均体重67.3g)に対して、体重当たり5.7ml(60kgの体重で342ml)のボルドーワインを昼食と共に与え、図1に示すように食後4時間にわたり血清の抗酸化活性を測定しました。
赤ワイン摂取直後から活性が上昇し始め、90分後に最大となり、平均で約15%まで抗酸化活性が上昇しました。
別のデータとして、Whiteheadらは18名を対象にボルドー赤ワイン300ml、白ワイン300mlあるいはビタミンC1gを投与し、摂取後1時間、2時間後に血液を採り、その血清の抗酸化能がどれだけ変化したかを調べました。
それによると、ビタミンCを1g服用した人は1時間後に22%、2時間後に29%まで抗酸化能が増加しました。赤ワインを飲んだ人は、摂取1時間後に高い人で58%、平均でも統計的な有意差をもって18%まで抗酸化能が上昇しました。また、白ワインでも全ての被験者で活性は上がっているが、赤ワインほど顕著ではなく有意な値ではありませんでした。食事をすることでも活性酸素が作られるますから、食事をしながら赤ワインを飲むのは健康に良いことが分かります。
白ワインの効能
では、赤ワインだけが良くて、白ワインは役に立たないのでしょうか。多くのデータの中には、白ワインに含まれるポリフェノールの方が、赤ワインのよりもLDLの抗酸化能が高いという報告や血小板凝集抑制に関しては白ワインの方が赤ワインよりも利いたというデータもあります。白ワインには、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどのミネラルがバランス良く含まれており、利尿作用があります。
白ワインには、約0.5%の有機酸(酒石酸、リンゴ酸等)が含まれていて食欲増進効果があり、また、有機酸の摂取は腸内細菌群のバランスを整える作用があります。最近の報告では、白ワインは大腸菌やサルモネラに対する抗菌力が高く、とくに2倍に希釈した濃度で比較すると、その活性は赤ワインよりも高かったといえます。
以上のようにポリフェノール含有量の観点からは、赤ワインの方が健康には良いようですが、白ワインにも種々の効果が報告されていますので、食事に合わせて、白ワインも赤ワインと同様に楽しむのがよいでしょう。
なお、赤ワインにはもう一つの良い成分があります。それはリスベラトロール(Resveratrol)で、ブドウがカビに汚染されると自分を守るために造るファイトアレキシンと言われる物質の一種であり抗カビ活性があります。'92年にワイン中の存在が確認され、LDLの酸化を防止し、血小板凝集を抑制することが報告されています。
食事とワイン
ガンの原因の30%は喫煙であり、35%は不適切な食事に起因するとされています。抗酸化能を有する物質を含む適切な食事をとることで、ガンを含む種々の疾病のかなりの部分を防止できると考えられます。沖縄と同様に世界的に見て地中海地方に長寿の人が多く、地中海風の食事が注目されています。これは、WHOとFAOによって推奨されています。
地中海風の食事は、パスタやパン、ライス等の穀類を充分に摂り、次に新鮮な野菜、果物、豆類を摂取。油はオリーブ油を適量に使用し、毎日ヨーグルトやチーズを摂ります。また、魚や鶏、卵等を週2〜3回、赤みの肉も月に2〜3回食べ、適量なワインを食事と一緒に飲みます。そし
て、定期的に適度の運動を行うというものです。
新鮮なオリーブ油には、ポリフェノール、ビタミンEが豊富に含まれており、脂肪酸組成の殆どがHDLを下げずに、LDLを下げると言われているオレイン酸です。赤ワインはポリフェノールが多いので、食事を楽しみながら健康にも良いものを摂取するという理想的食スタイルの一つです。
なお、コレステロールのレベルが比較的高めの方が長寿であり、しかも肉を食べるとアラキドン酸から幸福感を感じる物質のアナンダマイトが生成され、明日への活力が出るとの報告もあります。食事に併せて、油の比較的多い食事では動脈硬化の原因となる悪玉コレステロール(LDL)の酸化を防止する赤ワインをとり、淡泊な食事には白ワインというように、美味しい食事を適量のワインと共に楽しむことが推奨されます。
研究会会員だより「この頃の私、そして父への追憶」
会員 管理栄養士 向井 邦江
この頃の私の一端
お正月を挟んだ前後の一ヶ間は、私は久しぶりに仕事がほとんどない全くフリーの時間を持つことができました。とくに、この頃の私は更年期のせいか、身体を締め付けるもの、肌触りの悪いもの、やらなくてはいけないことが予定に入っているなどがあると、息苦しく感じることがひどくなっています。
朝、目覚めて「今日は、どうしてもこれをしなければならない」ということが無いというだけで、チョット幸せな気分を感じます。主人を送り出すとまたすぐに休憩に入って、朝刊にザッと目を通し、コーヒーを飲んで(まだみんな起きてこないで、私の大事な一人だけの時間を邪魔しないで……)、それから娘達の弁当を作り始めます。
こんなペースで、のらりくらりと毎日が過ごせたら、私の心は何と休まることでしょう。テキパキとお仕事をこなし、自分以外の人のために日夜心を砕いてご活躍されている皆様が、こんな話をお聞きになったら、本当にあきれてお笑いになるかと存じます。
今は亡き父への追憶
私は、去年の8月、79歳の父を肺ガンで亡くしました。9月から次々とやらなくていけない仕事(私にとっては多すぎる)があったので、なるべく父のことは考えないようにしておりました。
それが今年になって自由な時間が多くなってきたものですから、しきりに父のことを思い出すことが多くなっています。
よく思い出すシーンの一つに、母が胃ガンの手術をした3年前の出来事があります。母が寝ている隙に、病院の食堂で昼食を食べていた時のことです。私は母が心配で喉を通らない気持ちのまま、うどんをすすっておりました。父はというと痩せているくせに、うどんとご飯のセットを注文し、瞬く間にうどんの方を食べ切り、さらに白いご飯をおかずもなしに米粒一つも残さない勢いで食べていました。
私はそれを見て、「お父ちゃん、デンプンばっかりそんなに食べても、ご飯は残してもいいんじゃない?よくこんな時に食べられるわねえ!」と言いました。そうしたら、近くにいた初老の知らない人が私たちの方を見てにゃりと笑いました。
父はその人に向かって嬉しそうに、「私が戦争で南方から帰ってから結婚して、この娘(こ)が生まれたんですわ」と言いました。私はどう見ても美人とは言えないし、この娘(こ)と言うほどには若くはなく、その上寝不足顔のおばさんです。
聞く人は「何をそんなに自慢する程のことか」と思うだろうにと思って、恥ずかしくなりました。
こんな私でも父にとっては、自慢の娘だったのだなあ、本当に親バカ丸だしだったなあ、とその時の嬉しそうだった父の顔を思い出しています。
病苦に耐えて
ご飯を食べるのが辛くなった父、一匙、二匙、スプーンでお粥を口に入れてやると、「チョット休む。タイム」と言ってしばらく休んでから、「飯は全部食べたかいの?」と父。「まだ残っとるよ」と私が言うと、「そんなら食べる、飯を食べんにゃあ死ねんけんのう」と食欲を示しました。
お医者様からガンの告知をされていたにも関わらず、百姓の倅だったせいか米の飯が大事で、命が大事でやけっぱちにもならずお粥だけは食べようとした父。食べるのに時間がかかるので、最後はお粥が冷めてお茶漬けのようになったものを口に入れ、こぼれてもこぼれてもお椀が空になるまで食べ、空のお椀を見ると安心して目をつぶった父。「食べさせてもろうて、わしは殿さんのようじゃのう……」。痛みのために苦しみ通しであった父ですが、強い痛みが少し納まった時、「みんなの世話になったが、いよいよ別れが近うなった。逝く時が来たわい…。」と背を丸めて壁の方に向かってつぶやいた父。
私は、最後の3週間はずうっと父のそばに付添いました。父はいつもお医者様や看護婦さんが来て下さるのを楽しみにし、待ちこがれていました。私は心の中で、「少しの間でいいから、どうぞベットの側のイスに腰掛けて話し相手になってやって下さい。用事で父の所へ来るのではなく見舞ってやって下さい」と念じました。そして、「少しでいいから父が求めそうな希望(ベットに起きあがれる、散歩に行けるわずかな体力、一時自宅に戻れるなど)を叶えて下さい」と祈る思いでした。
父は一生涯身を粉にして働き、そして、最後まで頑張って生き抜いていったと思っております。
私は今、ぼんやりとこんなことを考えながら、毎日こたつにしがみついて暮らしているのです。
編集後記
これは科学者についての話ですが、私は一般の社会人や、栄養士も含めこのような事態に陥っていると考えています。たとえば仕事を依頼しても、「経験のない」「関心のない」「自分の利益につながらない」など様々な理由から、「やったことがないので出来ません」「忙しくて出来ません」など口実をつけて断るケースを多く見かけます。昔の諺で「若い時の苦労は買ってでもしろ」と言う言葉がありますが、経験のないことをすることは、苦労は多いですが、その成果は本人にとってそれ以上の実績となって残るはずです。また、それが専門分野から少し反れたものなら尚更、貴重な経験となるでしょう。
栄養士のみなさんも江崎博士の言われるように、「創造性に富む栄養学」を考えてみたら如何でしょう。
(広報部:吉田武男)