栄養かわらばん第11号
2001年3月発行
発行:日本臨床・公衆栄養研究会
発行者:井上 一也
サクセスフル・エイジングを目指して
日本臨床・公衆栄養研究会
会長 井上正子
生涯健康で長生きするためには、どんな生活習慣が効果的なのか。その秘訣が『元気で長生き10か条』と『食生活指針15か条』として、東京都老人総合研究所によって最近まとめられ、注目されています。
これは、老化の過程を正確に捉えることを目的とした調査で、同じ集団を長期間追った介入研究(調査に伴う指導)では、日本で初めてのものです。
日頃から、豊富な野菜と肉や魚などの動物性たんぱく質が不足しないようにバランス良く摂り、積極的に動いて足を鍛えるなどの生活習慣が、老化の抑制をもたらすようです。
これらの研究結果は、同研究所が1991年から2000年までの10年間、東京都の郊外にある小金井市と秋田県の農村・南外村に住む65歳以上の約1500人を追跡した調査データをもとにまとめられたものです。
一般にお年寄りの場合、「病気の有無にかかわらず、身の回りのことが自分できちんとできる」とことが大切です。そのために「必要とされる生活習慣の条件を探り、整理して有効な情報を提唱し、老化予防と健康づくりに役立たせたい」と行われた研究結果が次の10か条です。

【第1条】
血清たんぱく質のアルブミンは、老化や健康状態を示す指標となっています。アルブミン値は、栄養状態が良いと、血液中100ml中に4〜5gほど含まれますが、少ないほど早く死亡する傾向があることがわかりました。アルブミンの減少を予防するには、肉や魚、牛乳などの動物性たんぱく質を十分に摂ることが大切です。もちろん食べ過ぎは禁物ですが、「歳をとったら食事はあっさりと」というのは誤解です。正しくは、表2の食生活指針を参考にしてください。

この第1条について補足すると、次のようなことが言えます(表2の第7条を参照)。
現在、健康維持に大切とされている食品に野菜があります。食物繊維や抗酸化物質を含む野菜は確かに体に良いと言えます。10年後を目指した厚生省の健康づくり指針「健康日本21」でも、成人が1日に摂取する量を「350g以上」としています(1997年国民健康調査では292g)。
当研究でも、「長生きするには、どのような食習慣が効果的なのか」と村内の65歳以上のお年寄りを追跡調査し、総死亡率(あらゆる死因を集計した死亡率)と食習慣の関係をみています。
その結果、「肉・油脂類」「パン」「漬物・魚介類」の3つの食習慣では、それらの摂り方の多寡と死亡率とは無関係でした。ところが「植物性食品」を頻繁に摂る食習慣では、年齢や高血圧の有無、喫煙、飲酒、運動の習慣などに関係なく、すべて死亡率を下げていました。
これまで野菜は、ビタミン、ミネラル、食物繊維の供給源であり、老化のひとつの原因ともなる体の酸化を抑えるなどの効果が認識されており、不足のないよう摂るべき食品であるとの指摘がありましたが、このように「家で暮らすお年寄り」の追跡調査で、死亡率の低下がこれほどはっきり出たのは、日本で初めてと言えます。このように野菜も豊富に摂ることが大切です。
【第2条】
植物性食品の良さを極端に捉えて、これのみを食べ、歳をとったら肉や脂っこい動物性食品は避けた方が良いのかといえば「それではかえって知的な活動性を下げてしまう」ことが、今回の研究である『中年からの老化予防長期プロジェクト』の結果からわかりました。
というのは、東京部小金井市のお年寄り、約650人の食習慣と知的能動性(創作、余暇活動機能)の下がる危険率を調べたところ、図1に示すように「肉類・牛乳・油脂類をよく食べる」ことが、危険率を低くしていたからです。
さらに、肉類などに多く含まれ、悪玉視されている血清総コレステロール値についても、6年間小金井市と秋田県南外村で、自立しているお年寄りの総死亡率との関係を追ったところ、男性の場合は高齢前期(65〜74歳)で155mg/dl以下と209mg/dl以上で、女性は年齢にかかわらず182mg/dl以下では、総死亡の危険率がそれぞれ2〜3倍も高くなっていました。そこで「余命を延ばすには、コレステロール値は高過ぎず低過ぎずを保つのが良い」というわけです。
【第3条】
前述のように、栄養指標のひとつである血清アルブミン(3・5g/dl以下は低栄養)の高いことが、全女性と後期の男性の総死亡を低く抑えており、3.9g/dlを境に低い方は2倍も危険が高くなっていました。このことから、高齢者の軽度肥満はさして問題ではなく、むしろ体脂肪率の低い「やせ」の方が、特に女性ではリスクを高めていました。
台所に立つのさえ面倒になる高齢期、食事内容が偏りがちなため、小金井市での調査では、エネルギー、脂肪摂取がどんどん減るとのデータが出ました。食品それぞれの特徴と良さを再認謝し、偏ることなく、たんぱく質、カルシウム、ビタミン類などをどう合わせて摂るかが、健康寿命を左右します。
高齢になると、お年寄りはたいてい何らかの持病があり、今後の進行が心配されていますが、今回の調査では意外な結果が出ました。
【第4条】
糖尿病や高血圧などで同病の人同士でも「自分が非常に健康」と感じている人は、「あまり健康ではない」「健康でない」と感じている人と比べて、6年後の死亡率が半分以下になっていたのです。
持病や障害があっても、くよくよせず前向きに生きる姿勢が、健康につながるようです。
【第5条】
最近の出来事が覚えられるかどうかについても、記憶力のいいお年寄りの6年後の死亡率は、そうでない人のおよそ半分で長生きでした。健康上の知識も身につきやすいためのようです。
加齢とともに新しいことは覚えにくくなりがちですが、それを防ぐには血圧などに注意して脳血管障害を予防することが最も大切です。頭の働きが衰えないように、自分のことは自分でする心がけも必要です。
【第6条】
長生きには、太り方もある程度影響していました。日本肥満学会は肥満度判定の目安としてBM1(体格指数BMI=体重(Kg)/身長(m)×身長(m))を紹介していますが、65〜74歳の女性では、この値が21〜24の人がもっとも死亡率が低いという結果が出ました。
1か月に1kg以上の体重減少が続くときは病気が心配され、注意が必要です。
【第7条・第8条】
喫煙の害については広く知られるようになってきましたが、お酒は逆で、飲む習慣のあるお年寄りの方が、もともと飲まない人や飲むのを止めた人より、買い物などもより長く自分でできる傾向が見られました。
理由としては、楽しい会話などが良い刺激になっているのではないかと考えられていますが、飲み過ぎは禁物です。日本酒なら1日1合、ビールなら中ビン1本までが、もっとも死亡率が低いという結果が得られ、これは世界的なデータと一致しています。
【第9条】
血圧については、最高血圧(上の方の血圧)が、100〜130mm/Hgのお年寄りが、もっとも長生きする傾向を示しました。また血圧が低過ぎても脳梗塞などを起こしやすく、死亡率も高い傾向でした。適切な血圧を保つには、栄養状態の改善を図り、必
要に応じてきちんと薬を飲むなど、血圧管理を多面的に行うことが大切です。
【第10条】
この10ケ条をまとめるにあたり、同研究所は独自の『老研式活動能力指標』という自立度チェック表を使いました。介護をされないだけでなく、社会と交流するなど、高いレベルの自立を目指すための指標です。
@〜Dは活動的な日常生活を送るための動作能力、E〜Hは余暇や創作など積極的な知的活動能力、そしてI〜Lは地域で社会的な役割を果たす能力を測るもので、それぞれの能力を個別に知り、また全ての項目をチェックすることにより、総合的な自立度がわかります。
友人とも会わず、趣味のサークルにも入らないなどの閉じこもりがちなお年寄りは、この自立度チェック表の@〜Dの項目が、早く衰えることもわかりました。
老化による障害を予防し、誰もが生きがいに満ちた高齢期を過ごすには、個人としての健康度、すなわち生活機能の自立度を測る、このようなものさしの利用が有効です。
今回提唱された『元気で長生き10か条』と『元気で長生きのための食生活指針15か条』及び『自立度チェック』を繰り返し実践し、改善度を高めることによって、当研究所が目指すサクセスフル・エイジング(健康で自立した老化)が得られるのでしょう。
これを基盤に、今後は社会貢献することができるなど、さらに元気なお年寄りを探る研究も進むことと思います。
<栄養士座談会> 2001年1月27日
出席者:井上正子会長、杉田氏、松本氏、新田氏、司会:井上一也顧問
会長: 2週間位前に栄養かわら版広報部理事から、「日本の栄養士はアメリカに比べて20年遅れていると言われているが、今度記事として載せたいので、栄養士サイドから見た『20年遅れ』ついて討議してもらいたい」という話がありました。そこで今日はそのことについてお話し合いをしたいと思います。
司会: いよいよ21世紀に入ったが、平成12年度最後の会合で、「栄養士が20年遅れている」件についてどのように考えているのか、また、21世紀に向けてどのように対処していけばよいのかということについて、率直なご意見を伺いたい。
会長: 栄養士が遅れているということは、20年も前から言われています。20年経った今でも遅れていると言われるのには、いろいろな原因があると思います。学校教育だとか、医療現場での受入られ方、あるいは地域社会で栄養士をどう活用するかの受け皿があるのかどうか、などが影響していると思われます。私が心配しているのは、ずっと前から言われながら改善されていないという問題です。
遅れているという危機感を持っている人達は、日本の栄養士のあり方を引っ張ってくれる大事な人達なのですが、何故それが栄養士の皆さんに通じていないのかなどの問題点をここで指摘してもらいたいと思います。問題点がクリアーになっているなら、各人の努力で20年でなく、10年、5年の遅れに縮めてもらいたいと思います。さらに、3年頑張れば、10年の遅れに縮められるなどの見通しも出して欲しいと思います。
もうひとつは、世界のレベルがどうかということも含めて考えなければうまくいかないと思います。私は日本の栄養士のあり方がそれなりに認識されて、この伸び方でよいのだという体制に早くなってもらいたい。栄養に関わっていて、60歳を過ぎた者として、このままでよいのか私達が中年を過ごした今の時代に20年遅れをそのまま次の世代へ渡してよいのかを考えると、ここは何とか整理して置かなければという思いにかられます。是非、納得できるご意見を得たいと思います。
司会: 結局、遅れていると言われるのは何が遅れているのか、例えば、栄養学が遅れているのか、または、国の体制として栄養士が入っていけない領域が多すぎるのか、もしくは、一人ひとりの勉強が足りないので遅れているなど。もし、国の問題なら個々の栄養士がいくら頑張っても政府が何とかしなければどうにもならない。栄養学そのものなら大学に頑張ってもらわなければ仕方がない。医学でも我々開業医が医学を進めることは出来ない。栄養士にできることは、自分自身の勉強をするしかない。そこで何が遅れているのかということだが、国の体制が遅れているのなら、それを動かせる立場の人が、栄養士の皆に向かって遅れていると発言するのはおかしな話であり、それは違うと思う。やはり、栄養士の個々人に対して言っているのだと思う。
大体、医療、病院、開業医もそうだが、栄養士が入りにくいというのは、昔に比べて保険の点数が少しは付いているが、それだけでは栄養士一人の給料に間に合わない。結局、持ち出しになってしまう。保険制度の中では、栄養士の業務を医療と認めていないのではないかと思うところもあるが、今ここでそれを問題にしても仕方がない。うちの研究会の会員達が努力すれば、何とかいけるようになることについて問題として絞りたい。
松本: 今の栄養士は、オールマイテイーで広く、浅く分野を持っている面が多いようです。一方、アメリカの場合は、はっきり専門性が分かれていて、深く入り込みドクターと組んで活躍し成果をあげています。私達も今、生涯学習といわれているので、どの分野に属しても最初は幅広く学習し、その後、自分で専門分野を決めて進んで行くことが大切と考えています。システムの中に入って、栄養士の必要性が見えてこなければ信頼されないと思います。個人がどこまで入って行けるかという難しい面もあり、介護保険などについてもそうだと思います。
新田: 各分野に分けるのもよいのですが、 一般の人から見れば、何でも知っているのではないかと思われがちです。何が遅れているのか具体的には分からないが、栄養指導に行った現場では、オロオロしていてはだめで、色々なことを知っていなければ対処できません。マスコミなどでも食生活や栄養について色々取り上げるので、栄養士は専門性が求められています。
介護保険が始まって栄養士がケアマネージャーの試験を受けられるかというと、薬剤師、看護婦、社会福祉士、介護福祉士、鍼灸士などが決まり、栄養士は最後になったというのが現実です。他の職種は開始の2年位前から勉強に入っていますが、栄養士はその後だったわけです。実際の介護に当たっては、居宅療養管理の中で訪問栄養指導が実施されます。
実際の現場では、知識は勿論、日々の努力も必要ですが、相手の人に分かり易く、やさしく対応できるかどうかは千差万別です。ソーシャル的な面も非常に大事であると思います。
私も実際の現場で携わっているが、糖尿病の患者でエネルギーが1600Kcalと決められている場合、ヘルパーに対して指導はするが、訪問して利用者に対して直接に管理指導をすることない。
ケアマネジャーの資格で行っても、何の資格で受けたかと聞かれます。すると看護婦、介護福祉士などの資格の人が多く、栄養士というと珍しがられます。
松本: まだ病気でない人は、元気なので本人に危機感がない。そういう人達がライフステージで健康長寿を全うするために、今のうちから健康管理が大切なことをアピールして、それぞれの年代別に考えていきたい。一ヶ所の栄養士がその分野だけやっていくことは難しいので、たとえば、行政サイドなら社会福祉協議会などと連携してやっていくことが求められ、またその方がやり易いと思います。
会長: 今はそれぞれの立場から、栄養士としてどんな風に関わってきたかを伺ったわけですが、栄養面は介護の上でも大きなウエートで広がっていて、これからはもっと大きくなると思います。しかし、私はその点で栄養指導が収入を上げる仕事になるかというとならないという考えです。生活習慣病予防の立場であれば、地域の栄養士にはニーズがあります。
松本: 専門職としては、元々栄養士資格の者は、保健所の人達とは違うので、他の分野の人と連携をとっていかないと職務分野も広がりません。これからの健康教育には食生活が全てに入っています。予防がいかに大事かということを広げて行くことが必要です。
杉田: 今まで栄養士は成人病に対処することでやってきたが、充分効果を得るために今まで以上に栄養のことを勉強しなければならない。
これからは糖尿病に関わる栄養士であれば、その食事のことは栄養士の中のだれだれさんと名指される位、自分を深めて行動できるようにならなければ、生き残れないと思います。
新田: かなり以前、住民の健康診断で、医者が診断した後で集団指導があり、最初に保健婦、次に歯科、それから栄養士という順でした。医者の診断の段階でも血圧が高いといえば、食事に関することも言っていると思うし、保健婦の対応の際にもいろいろな話の中で食生活についても触れています。また歯科に回ってくると、ここでもどういう物を食べると歯に悪いのでバランスよく食べることの大切さという栄養的なことも話しています。その後で栄養士のところへ回って来るので、私達が陰で聞いていても、すでに栄養指導的なことは終わってしまっていることになります。
その後は、どうしたら良いかというので、料理についてなど献立中心の話になってしまう。本当は前に栄養面の指導を用意しているのだが、食材の良い組み合わせなど具体的な料理の話になってしまう。保健婦も栄養のことについて勉強しているし、逆に私達が栄養指導の時に、歯を大事にしなさいなどと歯について強調したりしてしまう。そのうち、集団は止めてしまい、希望者が保健所に来るようになり、体制も変わりました。
司会: 今、会長がいろいろな場所で講演していて、以前は最初に栄養士が話して、次に医者の話だったが、最近は医者の話を先にして、次に栄養士となってきている。医者が病気の写真を見せて患者を嚇した後で、こういう食べ方をすれば予防できるという話を栄養士がする、話す人の順序は大事だと思う。住民検診では対象が病気でない人達なので、やはり栄養の話になると食事の話になるのではないかと思う。
松本: これからは皆の生活スタイルの条件が違うので、その人のどこが問題点なのか個々に関わっていく必要があります。ちょっとしたことで改善できることもあります。実際に改善するのは本人なので、その人を把握するには、生い立ちとか家族構成、生活環境まで聞く必要があります。そして、栄養士の指導を受けて、行動の変容が見られるところまでいかないと、評価が見えて来ない。やはり、ニーズがあってそれに応えて、良い結果が現れれば、栄養士でなければと認められることになると思います。
杉田: 病院などでも栄養指導が必要なのですが、なかなか理解が得られないこともあるようです。患者にとって栄養指導は、絶対に必要なことと思います。しかし、医療の現場では食べるという基本が二の次になっている場合もあります。
食事のことをきちんとしておけば、外科の術後も良いし、慢性疾患でも予後が良いと言われています。
看護婦達が、訪問看護のステーションを作る時には、ものすごいバイタリテイーだった。栄養士は、20年遅れているとばかり言わないで前向きに取り組んでいただけるとうれしいですね。
新田: 今、訪問看護ステーションは、利用者の争奪戦で、ステーションはすごい熱気があると聞きます。普段から栄養をきちんと摂っていれば、何かあった時に軽くて済むといわれます。手術をした時、高血圧や糖尿病もなければ手術もうまくいき回復も早いようです。
糖尿病、高血圧、高脂血症などがあると手術の時に大変なので、食生活の大切さについて栄養士がもっとアピールしても良いと思います。
会長: 栄養指導の現場で、間違った情報をマスコミで流されると、とても迷惑だという話が私の耳にも入ってきます。ココアを飲めば良いとか、ワインを飲めば良いとかで、多量に飲むなどの行き過ぎもあるし、出演する者はどういう影響があるかまで考えてもらいたいと私自身も思っています。栄養士の皆さんが見て、おかしいと思ったらTV局へ電話でもFAXでもこんな点が違うと、どんどん言っていく方が良いと思います。
私が思うには、どういうところで20年遅れているかということを広い視野で見ると、医師や看護婦は20年遅れていないのか、国や行政は20年遅れていないのかということがあります。特に行政と医師の方が遅れていたら栄養士の方が遅れるのは当たり前です。これらは連動しているわけですから、しかし、そちらの方は言わないで、何故栄養士だけに言うのかと思います。
国の行政として管理栄養士を作ったが、専門性の活用として外国の真似をして作っただけなのか、どういうポジションに置き、どういう取り扱いをして栄養士の専門職として仕事をさせるのか、作っては見たが、今は仕事をさせていないというわけなので、専門家を作っておきながら、その仕事は保健婦にさせるというのはどういうこと、おかしいじゃないかと言えます。それは力がないからさせられないというのであれば、力を付けるにはどうしたら良いかということになるわけです。
それには行政指導で成り立っている学校教育という養成施設で基礎的力を充実させることが大事です。チーム医療でNST(ニユートリションサポートチーム)という形が外国であって、日本でNSTとか言っても、医者の方でも分かっていないので、20年遅れの原因はこういうところにもあると思います。
学校教育の方でも月謝を払っている以上、きちんとしたレベルまでにして出してもらいたい。うちの娘も卒業した途端に20年遅れていると言われガックリして、「学校で習って来たのは何?」と言っていました。学校の方も栄養学と言いながら、病院ともドッキングしていないし、実習で1〜2週間行って見て来なさいという形だけで、なんで医療に関わる栄養士でいられるのかと言いたい。そういうところも改善して行かなければならないし、その上で栄養士に勉強してくださいと言って欲しい。従って、国と教育と栄養士自身それぞれに問題があると思う。
私は栄養士にたくさん仕事を与えたい。栄養士がたくさん仕事をこなすにはレベルアップしておかなければ仕事が続かないので、そのために勉強しておかないと。本来、この研究会でやるべきことではないのかも知れないが、他にやってくれる所がないのでここなりにやっている。仕事場の中でも知識のサポートをすることは大事だと思うので、各人それなりの立場で考えて欲しい。20年遅れていると言われるのは恥じであると思います。
杉田: いつまでたっても20年遅れていると言われているのですよね。
会長: 国と教育機関、医療と協力して、お互いに頑張ってもらいたいと思います。
栄養士が地味というのは学校教育から出ているのか、それともそういう感じの人が栄養士になろうということになったのでしょうか。 今思うのは、仕事になる、お金になるようなシステムを作らなければということではないでしょうか。栄養士が地味なのはお金と関係しているのではないか。
各病院でもそうだが、栄養指導をする時、採算的にどうしようというところが必ずあります。大病院では栄養指導は治療の中で必要だから入れているが採算はとれていません。患者からとるのは3千円位しかとれないし、栄養士の給料を払うとなると3千円入って3時間分だけ払えば良いというものではない。
栄養士が患者に関わるとしたら、食事記録をもらいそれを計算してどういう充足率かを見ると、1日かかってしまう。それから指導する書類を作ると、1日分として1万円位はかかる。それに対し、3千円の収入では割に合わない。従って、栄養指導料はもっと高くて良いという形にしないと成り立たないと思います。
また、栄養指導には、一人15分と言われているが、いろいろな過程を経て結果を報告するまで1日仕事なので、もっと効率よくするにはどうしたら良いかを考える必要もあります。
栄養指導は相談を受けた人に行動変容を起こさなければ、指導効果が挙がったと言えないところに難しさがあります。では栄養指導はどの程度やらなければいけないか。薬を出す位は楽にできるが、その人の食事の行動変容を15分でできるようにするには、どういう切り込みをしたらよいかが抜けています。現場のスペシャリストとしては、そこに対応できるように、自分が勉強しなければならない。基礎教育をきちんと受けて、後は生涯教育として自分をどうみがいていくか、その中で方法を見出す。それを各人が持ち寄って後輩に教えることも大事だと思います。そういうことを活発にやっていけば、私達は努力していることを示せるし、後はアメリカ並みにレベルアップするために私達も皆さんと努力していくが、国の体制についても一緒に言っていかなければならない。
司会: 体制とともに栄養士教育にも問題がある。このセンターにも卒業したての若い人が来るが勉強しない。勉強するクセをつけてもらっていない。勉強するクセをつけなければ、卒業しただけでは一人前の栄養士にはなれない。
皆で: でも栄養士になって良かったと思っている。楽しいこともたくさんあり、やりがいもある。
司会: 栄養士の仕事はゆっくりだから、今日いって明日改善されるものではないし、医者なら薬の使い方で明日良くなることもあるので、患者自身も確認できる。栄養士の場合は1〜2ヶ月かかってジワジワと結果が表れることになる。
新田: 検査値の測定は1ヶ月1回なのですか。
司会: ものによっては、食事制限、抑制してすぐに血糖値などを測る場合もある。
新田: 私は、実際の現場で自信を持ってやれる立場にいます。プランをたてる時に看護婦がいろいろ主張してくるが、遠慮しないで言っています。ケアマネジャーには、看護婦が多く、看護婦を辞めたのは夜勤が多いとか責任が重いなどが理由のようですが、介護でもそれは変わらない。そんなことから辞めていく人も多く、仕事がいろいろ回って来てたいへんです。
会長: 介護保険などいろいろな問題が出てきた時に、栄養については行政でも分かりにくいので、取り上げずらいのかと思う。栄養士の存在がなぜ目立たないのかは、収入に起因することもあると思う。一方、看護婦の元気が良いのは、院内実習があって間違えれば生死に関わるので、いきなり責任の重大さを体感して看護婦になっていく。栄養士にはそれがないので、いくらNSTと言っても違うのではないか。医療の現場でも最先端ではなく、後方支援のまた後方の位置で、言葉としてはNSTとあるが実際は無理な気がします。栄養こそ私がやらなくて誰がやるの、他の人に任せていたらこの人の栄養はいい加減なものになってしまうので、だから私がやらなければという意識は持っていないと思う。やはりこの意識は学校教育でやらなければならない。それと同時にスペシャリストとしての自負心も持った方が良いと思います。
司会: 本日は、栄養士のみなさんにいろいろ体験を交えて、お話をいただきありがとうございました。「日本の栄養士は20年遅れている」と言われることに対して、当研究会としても何とかしたい、ということで昨年から講演会のテーマとしても取り上げました。
きょうは栄養士の皆さんの率直な意見交換の場を持ちましたが、これをきっかけにして 栄養士として社会に役立つように、より一層精進努力する決意を新たにして頂きたいと思います。
糖尿病患者さんと共に学習して
医療法人社団糖和会近藤医院
看護婦 堀口ハル子
糖尿病教室の形態は、各医療施設でいろいろと工夫されてきています。糖尿病に関する知識の習得を主体にした講義形式又は患者さんのコンプライアンスを重視したグループワーク形式あるいはそれらをミックスした形式など極めてに多様です。
私たちのところでは、患者さんに先ず糖尿病に関する基礎知識をしっかり身につけていただくことを目的に講義形式をとっています。動機づけは初診の時やその後の通院時を利用し、患者さん個々の問題に対応して話し合うことにしています。
講義形式とはいっても、質問あり対話あり実習ありと、臨床に根ざしたキメ細かい内容とするよう心掛けています。「糖尿病とはどんな病気?」「治らないのだろうか、特効薬は?」「どんな生活をすればいいの?」「各国で現在の研究成果は?」など、患者さんは知識の習得と情報の収集にたいへん熱心で、かなりハイレベルな質疑応答が繰り返されます。最近、転院して来られる患者さんの中に、長年通院しながら糖尿病についての教育・指導をほとんど受けていないという方がかなりあります。それだけに進行した合併症の患者さんも多く、教室での勉強姿勢は真剣そのものです。
教室は看護婦と管理栄養士が担当しています。初診時、看護婦は食事調査表によって細かく患者さんから聴取し、とりあえずのワンポイント指導を行います。その調査表は管理栄養士に預けられ、後日、マンツーマン指導や教室での食事療法教育のデータとして活用されます。看護婦と管理栄養士のチームプレーがここから始まるのですが、料理教室や腎症患者さんの実習指導などに注ぐ管理栄養士の情熱には素晴らしいものがあります。
私たちは臨床と患者さんに対する指導をー体のものと考えています。例えば心電図検査の折、必ず患者さんの足先に魚の目やタコ、外反拇趾がないかなど観察します。教室などでフットケアについては、先ず足先などを清潔にすることを指導しますが、その他なぜそうしなければいけないのか、外反拇趾や魚の目などはどうしてできるのか、それらを予防するにはどうすればよいのか、できた場合はどのように処置すればよいのかまでをお教えしています。更に患者さんの要望によっては、日本靴医学会の先生や信頼できるシューフィッターがいて安心して靴選びのできる店を紹介します。年に何度となくドイツを訪れ、靴の手作り製造にかけるシューフィッターの勉強振りには驚かされます。一度このような方々に同行してドイツの靴工場を見学させていただいたことがありますが、何千足という木型の前に立ったときは、「さすが靴先進国」と圧倒されそうな気持ちになりました。
腎症患者さんへの特別教育は、最初は看護婦の理論指導だけでしたが、低たんばく食の指導に入ってからは実習の必要性が高まってきました。そこである勉強会で知り合った低たんぱく食研究グループの管理栄養士さんにお願いした結果、職員として来ていただくことが実現しました。腎症指導の充実に併せ、それまで看護婦が担当したー般の食事療法教室は管理栄養士の担当になりました。
また、健康運動指導士の資格を取得したスタッフが増えてきたため、運動療法もそれらスタッフの担当となり、実習をまじえた教室運営に切り替っていきました。
優秀なスタッフを確保して、食事教育も運動教育も次々と私の手を離れれ、専門分化していったことを喜んでいます。この際、食事療法について患者の立場で勉強してみたい、また苦手な調理が少しでも上達するようにと思い、井上先生にお願いしてこの研究会に入会させていただきました。
ハツラツ人生食生活セミナー、センスアップクッキングなど素晴らしい勉強をさせていただき心から感謝しております。しかし最近は忙しさにかまけて、すっかり不登校の悪い生徒になってしまい申し訳なく思っています。
18年前、医院の2階の和室で炬燵に入って、患者さんと糖尿病について話し合ったことなどが、昨日のように思い起こされます。これからは原点に戻ってマンツーマン指導の良さを再認議し、正しい知識と新しい情報をべースにして、患者さんの豊かな人生のために日常生活管理のよきアドバイザーになっていきたいと思います。
訃報
武重千冬先生(当会名誉顧問・昭和大学学長)
は平成13年3月3日、逝去されました。
ここに慎んでご報告し、心から哀悼の意を表ます。
編集後記
“20年遅れている栄養士”という有り難くない
レッテルを貼られた皆さん。今回の座談会に参
加していたら、自分ならこう言うと思う「異論・反論または首肯同調論」のいずれでも結構ですか
ら、是非とも編集部にご意見をお寄せ下さい。
必ず、次回の12号に掲載させて頂きます。
(かわらばん編集長 木村和治)