栄養かわらばん第12号

2001年11月発行
発行:日本臨床・公衆栄養研究会
発行者:井上 一也

学会報告 第48回日本栄養改善学会



学会報告
 平成13年10月29〜30日に大阪で第48回日本栄養改善学会が行われ、日本医療栄養センターにて3題の発表を行いました。
(学会会場入り口にて)
発表した演題は次の通りです。
1.食生活継続通信指導に関する研究。
2.管理栄養士国家試験のための理想とする通信教育。
 〜インターネット教育による学習システムの開発〜
3.米の普及を目的とした米紛製品の試食と試作の研究。
なお、学会最終日の30日には当会会長の井上正子先生が1時間に渡り座長を勤られ、無事成功裏に終了しました。
各演題の詳細は次号かわらばんに掲載いします。

第45回講演会 
糖尿病の最新情報と栄養管理について
講師:河盛隆造先生(順天堂大学代謝内分泌学講座教授)
▽糖尿病患者に福音を与えるミスアメリカ
米国のミスアメリカになったニコル・ジョンソンさんは18歳で意識不明となり1型糖尿病と診断されたが、糖尿病を理解しようとする本人の弛まぬ努力によって、みごとに血糖値、食事の管理を行っている。ミスアメリカとして全国を飛び回って活躍され、日本にも来日して糖尿病患者を力づけてくれた。糖尿病はインスリンのコントロールができれば、普通に生活でき、出産も可能である。

▽"放置病"とされてきた糖尿病
これまで糖尿病は"放置病"とされてきたが、糖尿病に対しての考え方が変わってきている。現在,日本ほど糖尿病が早期発見されている国はない。人間ドックなどで見つかっても症状のない場合は、ほとんどそのまま治療されずに放置されてきた。日本人には1型糖尿病の人が少なく、ほとんどが2型糖尿病である。2型糖尿病の場合は、早期治療により直ることもある。厚生省調査による糖尿病患者数の推移を見ると、年々増加していることがわかる。
現在、毎年1万6千人が後天的に失明しており、そのうち10000人が糖尿病によるものである。また、毎年、1万の人が壊疽のため下肢切断をしている。そして、20万人が週3日の透析を受けている。このことは、これまでの10年,20年間における糖尿病患者の健康管理が悪かった為であると言わざるを得ない。

▽生活習慣病は、"知性の病気"
 患者は「自身のナースであれ」、「主治医者の助手であれ」、「化学者であれ」と言われる。ナースのつもりで患者さんの世話をするように、自分の生活を律し、食べること、動くこと、また自己測定した血糖値によってインスリンの量を変更するなど、日々の生活の中で患者さん自身が判断していくことが大切である。そして、ご自分の罹っている病気ついての知識を正しく知ることが重要である。
そのためには、患者の教育は怠ってはならないものである。例えば、「糖質の消化吸収を遅らせるグルコバイやベイスンのような薬ををなぜ食前に飲まなければいけないのか」を知らせなければいけない。知らなかったために、間違って何年も、食後に飲み続けて、全く効果が見られなかった、という例が山ほどある。患者を教育すれば、糖尿病を完璧に管理することができる。糖尿病教室を行うことは、とても大切である。

▽基礎インスリン分泌のメカニズム
 図1 食事摂取による糖のながれ(健常人)
血糖値を常に一定に保つためには、インスリンの量を血糖が少なくなる空腹時には少なくし、食事によってブドウ糖がたくさん血中に流れ込んでくる食後には多くしなければならない。通常、夜半の空腹時にも、血糖値が正常域に保たれている。これは夜間に肝臓からブドウ糖が放出されているからである。このようなメカニズムの働きによるのである。肝臓からの糖の放出や筋肉・脂肪組織が糖の取り込みをきちんと管理しているのは、<基礎インスリン分泌の働き>に因っているのである。三度の食事をすると、その直後にブドウ糖が体内にどっと流れ込んでくる。血糖値が上昇すると、膵β細胞がそれを認知し、すぐにインスリンを分泌する。インスリンが肝臓へと流れていって、肝臓からのブドウ糖の放出は抑えられる。血中のインスリン値が高くなるにつれて、肝臓や筋肉など全身の臓器が糖を取り込む。その結果として、血糖値は速やかに元に戻る。このように、インスリンの分泌とインスリンの働きを受け止める全身の臓器のみごとな協同作用によって、血糖値は食後ある程度は高くなるものの、ほぼ一定量を保つことができる。
肝硬変の人は、食前は低血糖で食後は高血糖になる。脂肪肝の人は、食前は高血糖で食後も高血糖である。脂肪肝の人は過剰エネルギーが肝臓で中性脂肪になり肝臓からのブドウ糖の放出にインスリンのブレーキがかからない為である。しかし、圧倒的に多い症状は、遺伝的にインスインの出方が遅い、または少ないケースである。
 図2 2型糖尿病の発症
 インスリン投下試験によって、血糖値は正常であるが、血中インスリン値が低い人がいる。その場合、他の機能が正常であれば発症しない。しかし、肥満、ストレス、妊娠などが原因で糖尿病になることがある。そのため、糖尿病の遺伝の可能性がある人は、糖負荷試験による血中インスリン値を知っておくことが必要である。
   図3 血糖値と血中インスリン値
 分泌量だけでなく、パターンが大事である。Cのように、遅れてインスリンが多量に出てくるが、

境界型であるという人は、肥満を助長してしまうため、糖尿病になる前に動脈硬化がどんどん進んでしまう。

▽OGTT(経口ブドウ糖負荷試験)の有用性
 OGTTは、軽い糖代謝の異常を調べるためには鋭敏な試験法であり、同時に尿糖のチェックも大事である。
尿中に糖が出たということは、血糖値が180を超えた時期があったということを示している。インスリンの測定し尿糖・血糖をみて遺伝であるかどうかが分かる。
 日本では糖負荷試験やインスリンの測定を受けることが健康保険で許されている。「OGTTの境界型は病気である」とWHOに認めて貰うために現在運動を進めている。
  ●"糖の流れ"を規定する主な因子
1.インスリン分泌動態(分泌量のみならず、分泌パターンが重要)
2.肝糖放出率
  肝糖取り込み率
  筋、脂肪組織糖取り込み率
* 肝臓、筋肉がインスリンに対してどれだけ機能しているかが問題となる。
●糖尿病患者のインスリン分泌動態
 図のBのように遅れて過剰に出てくるインスリンのため肥満になりやすいことを、その遺伝子を持っている患者のために知っておいてほしい。

▽糖尿病にみる特徴
糖尿病には、次のような3つの特徴が示されている。
1.食後高血糖の出現と遷延
2.次の食前の高血糖
3.朝食前空腹時高血糖
遺伝的に遅れてインスリンが出てくる人は、肥満になりやすい。インスリンが遅れて出てきても、
運動習慣のある人であれば、ブドウ糖が筋肉へ移行してエネルギーになる。しかし、運動習慣のない人の場合は、脂肪細胞に吸収されて肥満になる。肥満予防のためには、食後の血糖値を上げないようにする。そのためには、食事のはじめに食物繊維の多いこんにゃく・わかめ等を食べることである。それによって、糖質の吸収がゆっくりとなり、インスリンがわずかしか出なくなる。最初に糖尿病と診断された患者は、多くの人が肥満気味であり減量の努力をしても、1〜2キロしか減量できない。まず、食後の血糖値を上げないようにすることが大切である。

▽血糖管理状況の指標
グリコHbは、3ヶ月前から現時点までの平均血糖値を反映するため、緻密な管理がしにくい。
一方、グリコAlbは、2週間前から現時点までの平均血糖値を反映するために、変化がよく分かる。食事や運動療法が第一であるが、それだけではなかなか改善されず、薬を使うことによって糖尿病が改善される。

▽阻害薬の効果+食事+運動
● α-グルコシターゼ阻害薬:糖質の消化・吸収を遅らせることによって、糖尿病患者の遅れて起こるインスリンの追加分泌が糖質の吸収に間に合うようにする薬である。薬を使うことは、治療効果を高める。5年間、薬を飲んでいた患者の糖尿病が直ってしまった例がある。
食前高血糖は、夜中の基礎的なインスリンの出も悪くなっているため肝臓からブドウ糖が放出され血糖値が上がってしまう。

 "Beyond. Glucose"
 "糖のながれ"を読む
「糖尿病は検査の病気である」;検査データを活用して血糖管理を良くする。
15年の間空腹時の血糖値だけを測定したために、空腹時血糖が上がってから薬で対処した結果だが、だんだん薬が効かなくなり、インスリンの働きが悪くなる。

図4 各薬剤投与時の空腹時血糖値・HbAlc・体重の変化(中央値)

▽UKPDSが糖尿病の診断に示唆すること
  UKPDS  1977年から1998年
  (ユナイテッド キングダム)
2型糖尿病と診断された患者を20年間追跡調査したものである。それによると、糖尿病と診断された人の6割の人が高血圧であった。
UKPDSが糖尿病の診断に示唆することは、以下の点である。
1.血糖管理のみならず、血圧、コレステロールの管理が必要。
2.糖尿病は動脈硬化の発症、進展因子である。
3.血糖管理によって、網膜症の進行に差が出たのは、9年後、長期予後を考えて、今から管理をする。
4.糖尿病が進行すると、多種の薬物が必要になる。
(特に、空腹時血糖値が上昇してからの薬物療法は、効果が弱い。)
5.SU剤は効かなくなりやすい。

▽日本の糖尿病患者の特徴とその対応
 日本人の糖尿病患者の血管はきわめて弱く、血管障害が大きい。そのために動脈硬化になりやすい。最近では、動脈硬化の状態を調べる検査に際して、検査を受ける人に負担をかけないIMT(頚動脈内膜中膜複合体厚度)が使用されている。IMTが厚くなると、動脈硬化が進んでいることがわかり,年をとるに従って厚くなるが、糖尿病患者の頚動脈の硬化が早く進んでいることがわかる。
 そして、デッドリーカルテット(死の四重奏)と呼ばれる、軽い肥満、少しの高血圧、少しの高血糖、中性脂肪が高いことが、動脈硬化を加速することになる。
糖尿病への対応としては、"糖の流れ"を健常人と同じに戻す、インスリン分泌不全を改善することが大切である。運動療法は、運動をすることによって、筋肉の収縮が起こり、筋肉内のブドウ糖が使用されて、血糖値が低下する。このように、いつまでも軽症にとどめておくことが大切である。
 高血糖の持続は、インスリン抵抗性を増大させ、インスリン基礎分泌が低下し、やがて食前高血糖を招く。食後高血糖を抑制するためには、食事療法や、運動療法だけでなく、早期から薬を使用した方が効果的である。インスリン非依存型糖尿病は、最初のころは食後だけ高血糖になる。そこで、食事した直後から始まる糖の吸収を遅らせることができれば、遅れて起こるインスリンの追加分泌が糖質の吸収に間に合う。
このような目的で使われる薬が,「アルファーグルコシターゼ阻害薬」である。アルファーグルコシターゼ阻害薬によっても効果の上がらない時に使うのが、SU薬(スルホニル尿素薬)で、これは膵臓のβ細胞に働きかけてインスリンの分泌を多くすることが主な作用である。
薬を使用すると、どんな薬でも体重が増える。これは、糖の代謝が行われ、糖が吸収されるからである。だから、食事の量は減らさなければならないのである。  (文責 広報部長 木村和治)

第26回 センスアッブクッキング
平成13年7月14日
「料理をおいしくするテクニックーその6」
講師  田口道子先生

◇にんじんご飯
にんじん、玉ねぎをバターで妙め、塩、こしょうで味付けする.炊き上がったご飯に抹茶・白ごまと共に混ぜる.野菜を香りよく妙めるの がポイントで、抹茶の香りでとても食欲をそそる味でした。
◇魚と長ねぎのポワレ
白身魚に塩、こしょうでうす味をつけ小麦粉
をつける。にんにくの香りをつけたオリーブ油
で両面こんがり焼く。付け合せのねぎも3cm位
に切り、粉をつけて焼く。両方を鍋に入れ白ワ
イン、水を加えてふたをし、約5分萎し煮にす
る。煮汁を少し煮詰め、生クリームを入れレモ
ン汁、塩、こしょうで味つけする。皿に魚とね
ぎを盛り、ソースをかける。付け合せはトマト
を1皿の角に切り添える。
魚の焼き方、蒸し煮の方法などのポイントを教
えていただきました。付け合せのねぎが思いが
けずのおいしさでした。

◇卯の花甘酢和え
きゆうりを薄切りにし酢、砂糖、塩を混ぜて
おく.玉ねぎを薄切りにし、熱湯にさっとくぐ
らせざるにあげる。熱いうちにきゅうりとツナ
缶の水気を切ってレモン汁をかけたものを混ぜ
冷ます。卯の花を空いりし砂糖、塩で味付けし
卵を混ぜて煎りあげる。火を止めて酢を混ぜ冷
ます。野菜とツナ缶の水気をしぼって混ぜる。
卯の花を酢の物にすると、また変わった食べか
たでとてもさっぱりとおいしくいただきました。

◇なすのレモン煮
幹切りにしたなすをさっと水洗いして水気を
きる。砂糖、レモン汁、塩少々と水を少し入れ
混ぜておく。ホーローまたはアルマイトの鍋
に入れ、金気でない落とし蓋をし、上蓋はしな
いで弱火で15分位煮て冷ます。
冷たくして生クリームなど添え、デザートにも
なるというー品です。なすの赤紫色がとても鮮
やかでワインで煮たようです。味もしモンの甘
酸っぱさがなすととてもよく合っておいしく、 なすがデザートになるとは驚いてしまいました。

◇きゅうりのスープ
きゅうりは皮をむいて縦半分に切り、斜め薄
切りにする。豚ロース薄切り肉はー口大に切っ
てしょうゆ、酒で下味をつけておく。きくらげ
も水にもどしてせん切りにする。鍋に水を入れ
熱し、豚肉を入れてさっとはぐしひと煮立ちさ
せる。塩、酒で味をつけきくらげを入れる。きゅうりを入れてひと煮えさせ、しょうゆで味を整える。しょうがのせん切りを入れて器に盛る。夏向きのあっさりしたスープです。

今回のお料理は嘩下障害のある人にも食べやすいものということでした。お料理は基本をしっかり守り、理屈に合わせてポイントを押さえることが大切とお話がありました。また野菜も音と栽培方法が違うので、アク抜きなどそれに合わせて変えていかなければいけないとのことでした。
その他にもいろいろ参考になるお話をいただき
ました。くわしいレシピがほしい方はセンターまでご連絡下さい。    (文責 山岸由美子)

ミルク・ベーシック・プロテイン(MBP・乳塩基性たんぱく質)について
雪印乳業滑J発企画室 青江 誠一郎

1. はじめに                                  
最近、MBPという言葉を一度は聞いたことがある方が多いと思います。MBPは、ミルク・ベーシック・プロテイン(Milk Basic Protein)の頭文字をとったもので牛乳や母乳に含まれる天然の微量タンパク質のことを指します。日本語では乳塩基性タンパク質といいます。筆者らの研究開発チームは、明海大学・久米川正好教授の指導の下、MBPが骨の細胞に直接作用して、骨を丈夫にするというはたらきを発見しました。この研究開発には十数年の歳月を要しましたが、どのようにしてMBPを発見したのか、またミルクの神秘ともいえるMBPのはたらきについてご紹介いたします。
                        
2. MBP発見までの経緯                           
筆者らの研究グループは、1987年にカルシウムの研究を開始しました。骨の健康にはカルシウムを多く摂りましょうという考えは古くからありましたが、現在ほど浸透はしていなかったように思います。開始当時はカルシウムの利用性研究に主眼を置き、各種カルシウム素材を用いて、その吸収性や骨への沈着(生体利用性)を調べていました。その間に、牛乳のカルシウムには大きく3種類の形態があり、その中でもコロイド状カルシウム(ミセル性リン酸カルシウム)が吸収性ならびに生体利用性に優れることを証明しました。しかしながら、利用性の高いカルシウムを多く摂取すれば強い骨になるかというと、それだけでは限界がありました。カルシウムに加えて何か骨を丈夫にする成分が乳中にあるのではないかという仮説が浮上してきたのです。                          
1990年より牛乳中から骨を丈夫にするカルシウム以外の成分を探す研究がスタートしました。当初は雲を掴むようなテーマでありましたが、あるヒントとなる事実を知ったことから研究のきっかけが見つかりました。それは、「骨はカルシウムの塊ではない。骨は、有機質(骨基質)と無機質(骨塩)からできており、その中で細胞が活発に代謝をしている。すなわち、骨は生きていて日々生まれ変わっている」ということでした。そこで、骨の生まれ変わりのバランスを調節する成分を見い出す事を目的として骨の細胞を用いた実験を繰り返し行うこととしました。骨の細胞を用いた実験は、当時はそうたやすいことではなく、最先端の技術を開発していた明海大学・久米川正好教授の指導を仰ぎ、骨芽細胞(骨を形成する細胞)と破骨細胞(骨を破壊する細胞)をそれぞれ用いた評価法の指導を受けながら進めることとしました。新発見の影には独創的な手法がつきもののように、久米川教授らの方法を導入後、数ヶ月目に乳清タンパク質中に、骨芽細胞を増やしたり、骨基質であるコラーゲン合成を高める成分が存在することが明らかになりました。これが、MBPの原型です。

3. MBPの発見                               
乳清タンパク質中に何かあることはつかんだものの、その成分が何であるか分かるまでにはかなりの時間を要することとなりました。試行錯誤の結果、タンパク質の中でも特異的な塩基性(=アルカリ性)画分に存在することが判明しました。
その後、乳清タンパク質から乳塩基性タンパク質を分離することに成功し、1995年にミルク・ベーシック・プロテイン、MBPと命名しました。大量調製したMBPを用いて動物実験を実施したところ、骨の強度を高める効果は乳清タンパク質よりも強いものであることが確認されました。
その後、MBP中に骨芽細胞にはたらく成分として高分子キニノーゲンフラグメントとHMG様タンパク質が発見されました。さらに破骨細胞にはらたく成分としてミルクシスタチンも加わり、MBPの主要な有効成分が明らかとなり、研究は大きな進展を見せました。

4. MBPについて                              
 MBPは、牛乳または乳清を乳成分の分離や糖の精製に用いる陽イオン交換樹脂に通液させ、MBPを吸着させてから溶出・回収することにより得られます。乳タンパク質のほとんどはα−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリンなどのように酸性の等電点を示し、塩基性の等電点を示すものは微量です。
得られたMBPは淡褐色の水溶性の粉末で、タンパク質含量が約98%のものが得られています。MBPの細胞に対する活性は、通常の乳加工における加熱処理では比較的安定であることが分りました。

5. MBPのはたらきについて
 これまでに確認されているMBPのはたらきについて紹介します。まず、骨を作る働きをする骨芽細胞の増殖促進作用ならびに骨基質であるコラーゲン産生促進作用があげられます。骨芽細胞の培養液にMBPを加えた結果、MBPの濃度が高いほど骨芽細胞が増殖しました(図1左)。また、骨芽細胞数を同一にして細胞が合成するコラーゲン量を測定したところ、MBPの濃度が高いほどコラーゲン産生量が高まりました(図1右)。さらに、骨を破壊(吸収)する破骨細胞による骨吸収を抑制する作用があげられます。破骨細胞の培養液にMBPを加えたところ、破骨細胞が骨を削った穴(ピット)の数が、MBPの濃度が高いほど減少しました(図2)。
 次に、実験によるMBPの効果について紹介します。成長期のラットに、MBPを餌に混ぜて3週間与えました。その結果、成長や体重には差がありませんでしたが、MBPを多く与えたラットほど大腿骨の成長点にあたる骨端成長板の長さが増加しました。成長期の動物にMBPを与えると骨形成が促進され、骨基質であるコラーゲン量が増加し、骨強度が高まることも認められています。                                                                 
さらに、更年期モデルラット(加齢ラットの卵巣を摘出したモデル)にMBPを体重kgあたり36mgになるように餌に混ぜて16週間与えました。その結果、大腿骨の骨密度の急激な低下が抑制されました。この時、骨強度の低下も抑えられました(図3)。
最後に、健康な成人女性(20〜50代)を対象に、6ヶ月間のMBP飲用試験を行った例を紹介します。その結果、MBP無添加の飲料を摂取したグループに比べ、MBP添加(1日あたり40mg)グループの踵の骨密度増加率が高くなりました(図4)。この期間のカルシウムやビタミンDなどの栄養摂取量は差がなく、体重や健康状態にも影響がありませんでした。また、骨吸収の指標となる、尿のコラーゲン分解物もMBP添加飲料グループで減少しました(図4右)。したがって、成人期においては破骨細胞の働き(骨吸収)を一定限に抑えて骨形成優位にすることができると考えられます。これは、MBPがヒトに明確な効果があることを実証した試験となりました。骨代謝を改善させることは短期間では難しいことですが、小規模な試験とはいえ明確な差が認められたことは意義深いと考えられます。
 以上のように、細胞、動物、ヒトの試験の成績から、MBPには、
・骨をつくる骨芽細胞を増やし、
・骨芽細胞のコラーゲン産生を促進し、
・破骨細胞による過剰な骨破壊を抑制することにより、
・骨の代謝や組織を健康な状態に維持する
はらたきがあることが確認されました。

6. 製品化に向けて
細胞からヒトまでの有効性が確認され、いよいよ製品化の段階になったのは最近になってからです。ミルクの神秘ともいえるMBPの機能をいかにして製品に結びつけるか。そこで、MBPを精密に分析する技術の開発、原料の開発と大量生産、さらにはMBPを強化した商品の品質保持技術の開発が進められました。MBPは牛乳から生まれたものですので、日常摂取する量の乳飲料や発酵乳を摂取した場合にMBPが効果的な量を摂取できるように強化することとしました。また、乳製品に配合した時に、活性のばらつきがないように、有効成分について定量と定性という二つの試験を行う必要がありました。そこで、両面から再現性の良い測定方法を開発し、製造工程のチェックなどを経て市場に出すことができました。乳飲料、発酵乳のみならず、清涼飲料水、スキムミルク、チーズなどにもMBPを強化していますが、今後は牛乳の新しい価値の一つとも言えるMBPをさらに有効に利用していきたいと考えています。

7. 今後の課題
大地の恵みである牛乳と人々の健康をつなぐカギになるのがミルクに秘められたチカラではないかと私たちは考えています。そのためにはさらなるミルクの神秘の探求が必要です。牛乳にはまだまだ多様なチカラが含まれていると思います。栄養成分はもちろん、免疫力を高める成分、さらには神経系の発達に関与する成分なども見つかっています。ヒトが成長期に必要とするさまざまな成分が凝縮されており、ライフステージごとに必要な成分がうまくはたらいていると考えざるを得ないほど巧妙なものです。MBPは生理活性タンパク質の複合体であり、未知の成分もまだ含まれています。それらを一つ一つ明らかにすることが私たちの使命であると考えています。
本稿は、明海大学・久米川正好教授の指導の下、雪印乳業葛Z術研究所MBP研究開発チームの研究成果を基に作成しました。
<筆者紹介>
・昭和33年東京生まれ ・昭和59年千葉大学大学院園芸学研究科農芸化学専攻・修士課程修了
・昭和59年雪印乳業(株)技術研究所勤務 ・平成元年千葉大学で農学博士号取得
・平成7年雪印乳業(株)栄養科学研究所勤務/骨の研究、MBPの研究に取り組む
・専門領域:栄養生理学、食品化学 ・学会活動:日本栄養食糧会、日本骨代謝学会会員他複数会員、

編集後記
■社会的生活習慣病としての
         「テロや狂牛病の騒動」
夏が終わり、毎日が過ごしやすくなった途端、世の中がひっくりかえりそうな事件が二つ勃発した。一つはニューヨークの世界貿易センターがテロリストに攻撃され倒壊したこと、そして、もう一つは日本国内では有りえないと政府が言明していた狂牛病の牛が発見されたことである。奇しくも、この事件は同じ日、つまり9月11日にマスコミを通して知る事となった。そして、その日から世界の様相と流れが大きく変わってしまったと言っても過言ではない。(尤も、狂牛病については発表が9月11日になっただけで、牛が発見されたのはその一月程前だったとのことだが。)
 テロリストと米国の闘いの推移を見守ることも大事だが、食品に携わっている筆者にとっては、狂牛病は看過出来ない出来事であり、細かく調べてみるとさまざまな問題が背景に横たわっているようだ。狂牛病がヨーロッパで発生してから現在に至るまでの政府や行政の対応の遅れは言うに及ばず、狂牛病そのものに対する公開情報の少なさと安全性に関するインフラや法律の欠如は、消費者や牛畜産関連業者に大きな不安を作り出している。
しかし、今回、狂牛病が私達に投げかけている問題は、ただ単に行政や政府あるいは食肉業界といったレベルではないのではなかろうか?食品産業の分野では、過去40年に渡り、加工食品はもとより、農産物や家畜にいたるまで薬品や化学物質を使用することで利益率と生産効率を追及してきた。家畜の例をとると、以前は放牧あるいは放し飼いを中心とした牧畜業であった。しかし、近年は、アニマルファクトリーとの別名が出来たほど家畜は動物としてよりむしろ製品として扱われ、「如何に短期間に肥育・出荷し、利益を出すか」が最も重要なポイントになっている。さらに、狂牛病の発生原因と言われる肉骨粉等の飼料は、草食動物である牛が「共食いになる肉骨粉を食べる」ことなど、牛にとってはまさに自然の摂理に反した食生活を強いられてきた経緯がある。
 私達の食生活を振り返ってみると、過度に加工された擬似食品の氾濫、栄養過多、化学物質に汚染された食品原料等、牛同様自然の摂理に反した食生活をおくらざるを得ない環境に置かれているようだ。この狂牛病騒ぎは、自然に逆行した生活あるいは行動をとった場合、いつかはシッペ返しを食らうことを啓示しているのではなかろうか?
私達が、テーマにしている生活習慣病もまさに、人間の体の摂理に反した日常生活を長い期間続けた結果だということを改めて認識することとなった。狂牛病にしろテロリズムにしろその背景には、こうした現象が起きる原因が長い期間に渡って蓄積された結果であり、筆者はこれらを社会的生活習慣病の一つと結論づけたい。
[広報部理事 長友 信]

HTMLトップ >栄養かわらばん >セミナーお申込み >研究会概要  >FLASH自動判別
All copyrights reserved to Nihon Rinsho-Koshu Eiyo Kenkyukai © 2003