栄養かわらばん第13号
2002年5月発行
発行:日本臨床・公衆栄養研究会
発行者:井上 一也
サプリメントの正しい理解と活用法(その1)
■サプリメントの正しい理解と活用法(その1)
会長と広報部長の木村氏との対談を木村氏が纏めたものです。
会長 井上 正子
◇はじめに
サプリメントは、英語で"補う"という意味です。現在、アメリカでは全人口の60%がサプリメントを利用しているといわれています。最近は、日本でも手軽に栄養を補える食品として、薬局やスーパーで見かけることが多くなりました。
日頃、仕事として栄養指導に携わっている私たちは、食生活における「サプリメントの正しい理解とその活用法」について充分に留意しなければならないと思います。それについて私の考え方を何回かに分けて述べたいと思いますので、参考にして下さい。
◇アメリカのサプリメント法の制定経緯
アメリカでは、1994年にThe Dietary Supplement Health and Education Act (DSHEA 栄養補助食品・健康・教育法)
が制定されました。これにより、栄養補助食品が医薬品と食品の中間に位置づけられる食品として法的に確立された訳です。それに先立って、1992年にFAO/WHOの合同規格会議では、<コーデツクス委員会>を設置して、「消費者の健康の保護と公正な食品貿易を確保すること」を主な目的として、栄養補助食品についてのガイドライン草案を示しています。
アメリカのDSHEA法に関して、当時のクリントン大統領は、1994年10月26日に声明文を出しています。その中で参考になる箇所を『』の中に抜粋します。 *1:資料「栄養補助食品の動向と今後」
『"栄養補助・健康・教育法"の成立は、企業の方々と、栄養学者、法律家、消費者運動の方々の努力が栄養補助食品に関する法案の作成をもたらしました(略)。(略)消費者をはじめとする彼らの利益と、国の継続的な利益のバランスを維持するために、消費者が手にする栄養食品の品質の安全性を保証することができるようになりました。(略)簡単に申し上げれば、国の食品・医薬品・化粧品法に、新たに、ビタミン・ミネラル・ハーブなどを含む栄養補助食品を規制する法律が作られました(略)。(略)実際に、長生きをするために、どのような生活をして、何を食べたらよいかを、真剣に考える時代になっています。政府は、最終的には、消費者を保護するために、健康を促進する栄養補助食品に対して、新しい道を開いたことは本当に喜ばしいことです。』
William J. Clintonの署名 <細谷憲政訳>
このような声明文をみると、アメリカの場合は、貿易上にも目標が強く打ち出されています。つまり、栄養補助食品を日本へも自由に輸出し、日本にそれを受け入れさせたいという意向が働いています。そ
して、本当に国民の栄養を基礎から良くしようというよりも、食品産業の発展を期待して生産や流通に目がいっているように見受けられます。
従って、栄養補助食品についてのアメリカと日本の考え方が、どう違っているかよく考えて対応しなければなりません。
◇アメリカのサプリメントへの概念
DSHEA法の栄養補助食品の多くは、食品の形状をしていないという特徴があります。
1.該当範囲・・・・・・ビタミン、ミネラル、ハーブ、
その他植物成分、アミノ酸等。
2.形状・・・・・・・・・・錠剤、カプセル、粉末、液体のような製剤形態。場合によって通常の食品の形状も含む。
このような形状のものは、日本では医薬品と見なされていました。それを「食品」と表現する点に違和感があります。
本来、「健康食品は、食生活の困難な場合に、2次的、補完的に利用することが望ましい」とされています。食品を摂取するのに咀嚼器官等に特別に困難がない場合、食生活を立て直すことをせずに安易に錠剤やカプセルで栄養素を補うことをすすめるのは早計で良くないと感じます。また、そのパターンはやはり投薬であり、食事というよりも治療形態であると言えます。
日本で、栄養補助食品の法的規制をするに当たって、医師などの医療関係者、栄養学者、食品産業従事者、行政担当者などが、望ましい利用法について充分に論議し合ってていないと思います。現在のままでは栄養士の立場としては、サプリメントの利用には当惑しているのが現状でしょう。しかし、アメリカでは、ダイエタリ・サプリメントに認定されれば安心できる食品として消費者に受け入れられているようです。
◇食生活からみたサプリメントの役割
今の日本では、「健康日本21」や「2010年を目標とした食生活指針」などで「食事をきちんと食べましょう」と提言しています。その運動の最中に食事がうまく摂れないならサプリメントで簡単に栄養素を摂ればよいという方向に走ることは矛盾しています。本当の意味での食力を育てようという時に、サプリメントに頼る食事が一般化することに大きな不安を感じます。
医薬品と食品との間に位置づけられる便利なものとして栄養補助食品のような存在を認めるとしても、今のようなものではなく、もっと人間の健康に即したものがあるように思います。
食品産業としては、ダイエタリー・サプリメントで、今後新しい市場を切り拓くことに成功するでしょう。しかしこれは通常の食べ物をキチンと食べて健康をつくってもらいたいという立場からすると、単純には喜べないのです。
栄養素の摂取量が通常の食事では少ない場合に、それを補うために栄養補助食品を使用すればよいとされていますが、栄養士なら、例えばカルシウムの摂取量が足りないなら、まず不足の理由を明らかにし、状況に対応させて正常に摂れるように促す指導方法をとるべきでしょう。私が心配しているのは、あくまでも栄養の補助だと言っていても、使用が始まれば、本来の食事の改善はなされないまま栄養補助食品に頼ることに流されてしまうようになるのではないかということです。
◇食べることは身体全体の活動
サプリメントは特定成分のみを摂るわけですが、私たちの日常の食事は多種類の栄養素とボリュームを備えています。実はこの量も人体にとっては大切なものなのです。
天然の食品には、エネルギーとなるたんぱく質・脂質・糖質がそれぞれの量で含まれ、これにビタミン・ミネラル・食物繊維(その他)などの栄養成分が加わっています。
ものを食べるということは、いろいろな器官を使います。噛めば消化酵素を含んだ唾液が出ます。また、異物があればそれを感知し取り出す作業も行われるなどいろいろな機能が働きます。
さらに、嚥下して食物が食道から胃に行くと、本格的な消化が始まります。そして、十二指腸へ行って消化吸収が進みます。肝臓へ行った多種類の栄養成分は、様々に分解処理されますがそれにはエネルギーが必要です。一般の食品で作る食事はエネルギーと栄養素を併せ持つのでふさわしいのです。
また、食事により血糖値が上がりインスリンが放出される仕組みも毎食きちんと活用してゆく必要があります。サプリメントの摂取を中心に続けていると、このような仕組みがうまくゆかず、血糖コントロールの機能低下をきたし、糖尿病などを悪化させることにもなるでしょう。
小腸から大腸へと消化の流れは続きますが、大腸で大便を作るには不消化物の食物繊維が適量ないと良い便はできません。便の量がないと直腸に溜まってしまい、大腸癌の原因になり易いのです。
このように人間が健康を維持してゆくために摂る食事は、エネルギーがあり、身体が必要とする多種類の栄養素を含む食品を量的にもバランスよく摂ることが生理的に必要なのです。 〔次回に続く〕
(文責 広報部長 木村和治)
■講 演 会
第49回講演会は、元北陸農政局長の中澤明先生をお招きして、2002年3月30日に開催された。
メインテーマは「大乗寺雲水に学ぶ栄養学(土地の風土に合った伝統的な和食のすすめ)」であったが、「農政から見た食料・栄養事情」などを交えお話頂き、非常にユニークな講演会になった。そして、
中澤先生の専門分野では、次のようなことをお話いただいた。
<講演内容>
1.雲水の食生活の分析にいたった背景及び、雲水の食生活の分析結果
2.農政の動きとしては:
@食料・農業・農村基本法のあらまし
A食料・農業・農村基本計画関係資料抜粋
B「食」から始まる健やかな生活…食生活指針
C世界の水需給と食料生産
D暗雲たれ込める世界の食料生産
◇食料・農業・農村基本法のあらまし:
新しい基本法は、約3年前(平成11年7月)にできている。
旧農業基本法(昭和36年に制定)と食糧・農業・農村基本法の違いは、名前の違いからも推察できるが、農業中心から食料さらには農村を含め国民全体を視野に入れたものになった。そのポイントは、食料の1安定供給・2多面的機能の十分な発揮(諸外国では輸出入の取り決めの時農業品と工業製品を同じに考えるべきとの主張があるが、日本では農業品は多面的機能を持つため同列には扱えないと主張している)・3農業の持続的な発展・4農村の振興、この4つの理念を提唱していることである。そして、この基本法を実行するために基本計画が作られた。
◇食料・農業・農村基本計画
我が国の食料・農業の現状は、先進国と比べると以下の通りである。
@日本の食料自給率は、此処40年の間に約80%から40%に低下している。

A農地面積は、日本では1人当たり4.1aフランスは52.2aと日本は大幅に少ない。

B日本の自給率はイギリス、ドイツ、フランスと比較しても非常に少なく、年々減少傾向が見られる。

基本計画では、今後おおむね10年を見通し、食料自給率の目標や政府が講ずべき施策などが定められている。その中では、日本は人口に比べ農地が狭く平坦でないなどの不利な条件があり、食料供給は輸入への依存を高め、食料自給率は年々低下して、先進国の中では最低の水準となっていることが述べられている。以下は基本計画の要点を抜粋したものである。
この基本計画の達成には、国民参加型の農政の展開が重要、且つ必要であり、基本的には食料として国民に供給される熱量の5割以上を国内生産で賄うことを目指すことが適当である。
まず、第一段階として平成22年までを食料自給率の低下傾向に歯止めをかける期間とする。この段階での自給率の目標は45%(現在40%)である。これらの課題解決に向けた取り組みを促進するため、農地や担い手の確保、生産基盤の整備、技術の開発・普及等の施策を進め、食生活の見直し・改善に向けた国民的な運動の展開を支援する。
食生活の見直しとしては、「健康日本21の考え方」を取り入れ、また、食べ残しの廃棄を極力減らすことにより、望ましい食糧消費の姿を示した。例えば、主食の米の消費量は、平成9年は一人あたり66.7Kg、10年は66.2Kgであり、過去の状況からの推測では平成22年には62Kgとなるがこれを66Kgになるようする。肉類は平成9年で24.8Kg、10年は28Kg、22年では32Kgとなるが食べ残し・廃棄を引いて目標を27Kgとする。
今回の食料・農業・農村基本法が、今までと大きく変わった点は、国が全ての責任を負うものでなく、地方公共団体、農業者、事業者、消費者も責任を負うことである。
◇大乗寺の雲水に学ぶ
このレポートは、金沢市にある曹洞宗大乗寺の雲水(30歳)の1週間の食事記録を分析したものである。以下は、主な栄養素の平均摂取量である。
*熱量:2175Kcal *たんぱく質:59g
*脂質:41g *炭水化物: 381g
*ナトリウム:5.62g
なお、食料の自給率は、66%と全国平均の40%と比べ高い値を示した。主食は米を中心とし玄米を使用しており、総エネルギーの約半分を米からとっている。主菜には大豆製品が多く、副菜には野菜、いも類、きのこ、海藻などが多い。全て自給率の高いものばかりである。
PFC比率を見ると、12:18:70と炭水化物が多く、脂質が少なめであった。摂取エネルギーは少ないが雲水は適正体重を維持している。
(文責 井上一也)
※関心のある人は、レポートの残数がありますので、問い合わせて下さい。(郵送、コピー代実費)
■高齢者の健康増進運動
総合健康研究所 菅野隆 ◇はじめに
わが国の平均寿命は世界一ですが、それゆえに生涯に渡る健康の維持増進がたいへん重要です。高齢になってからも最期まで幸せに楽しく充実して暮らしていくためには、自立して生活できるだけの健康と体力が必要不可欠です。癌、脳、心臓の血管系疾患などの三大生活習慣病はもとより、「死の四重奏」といわれる肥満、高血圧症、高脂血症、糖尿病、そして介護を要する寝たきり、痴呆などのほとんどのリスクは適度な運動を生活にとりいれることで軽減され、また、予防が可能なのです。
◇高齢者の激増と深刻な問題点
現在わが国の高齢者人口は2264万人(国民の6人に1人の割合)で、100歳以上は15475人いますが、今後も急増し、2050年には国民の3人に1人が高齢者という社会になります。 また、要介護者は200〜300万人おり(寝たきりl20万人、痴呆150万人)、2025年までには倍増すると予測されているのです。
中でも寝たきりの要因となる転倒による大腿骨骨折は、年間10万件にものぼり(原因の1位は脳卒中)、この10年間では2倍に増えており、年間2000億円もの医療費がかかって社会問題化しています。また、家でテレビばかり見ている引きこもりや鬱も増え、高齢者の生きがい、社会参加の場が必要とされています。
これらのデータからみても、高齢者が適度な運動を、楽しみながら実践することが社会的にも経済的側面からも重要だということがわかります。
◇元気な高齢者は運動好きである
アメリカでは老人ホームにジムがあり、筋力トレーニングマシンで80歳を過ぎた方がトレーニングをしているといいます。また、有名な聖路加国際病院の日野原先生は90歳を過ぎた今でも現役で活躍され、院内ではいつも階段を2段飛ばしで上がり、「エレベータを使う人の気が知れない」とおっしゃっているそうですが、まさにスーパー高齢者、お手本といったところです。
生涯に渡り必要な具体的な体力には、呼吸循環系の予備力である全身持久力や、立ったり歩いたり姿勢を維持するための筋力、そして、関節の可動域を保つ柔軟性、バランスを保ち転倒を予防する平衡性、敏捷性などがあげられます。これらは一朝一夕で高められるものではありませんから、できれば若いうちに、遅くとも中年のうちからウォーキングなどの運動習慣を身に付け、積み重ねておくことが大事です。もちろん80歳になっても90歳になってもそれなりにトレーナビィリィティがありますので、遅すぎるということはないのですが、「備えあれば憂いなし」です。認識を新たにして、できるだけ早いうちから行く末に備えて、ライフスタイルの中に運動習慣を取りいれましょう。
◇高齢者にとっての具体的運動効果
高齢になっても適度な運動を行うことにより、QOL(生活の質)、ADL(日常生活活動強度)や自立能力を高めることができます。複数の国際的研究報告などから、以下のことが明確にされています。
*歩くスピードの速さとQOLの高さは相関する
*1日4千歩以下の高齢者は病弱で、8千歩以上は元気
*歩いている高齢者は、物事の判断時間が短い
また、その他の運動効果としては、
@生活習慣病、寝たきり、痴呆の予防の改善
Aストレス解消
B軽度鬱、引きこもりの改善
C体が軽くなり、痛みやこりなどが軽減、解消する
などが明らかなのです。総じてウォーキングを基本として、姿勢が良く、よく歩く高齢者は元気で明るいということができますが、私が今までに指導させていただいた経験からもその傾向は確かにあるといえます。
◇高齢者の身体・体力特性を踏まえた運動
運動をするにあたって、踏まえなければならない高齢者の特性は、以下のとおりです。
@誰でも何らかの病気をかかえている
A関節が硬く、可動域が狭まり、痛めやすい
・手が上げられない
・膝、腰を深く曲げられない
・歩くとき、足・膝・股関節が伸びない
B背中が丸まり(円背)、腰痛になりやすい
C骨がもろく(骨密度はピークの3分の1)骨折しやすい
Dつま先が上がらず、転びやすい
Eすべての体力は低下するが、特に平衡感覚、腹筋持久力、敏捷性の衰えが激しい
F筋力の中では、下肢筋群、特に大腿四頭筋が低下する
G下肢内転筋群が衰え、O脚になり膝が割れる
H速筋繊維が減少し、素早い動きができなくなる
I神経、感覚器官の機能が低下している
以上の特性を踏まえ、決して無理をせず、安全に気持ちのいいところまで運動することが大事で、それだけでも十分効果があります。
◇高齢者の運動で注意を要する6つのポイント
ひと口に高齢者といっても、年齢幅はもちろん体力の個人差には、すさまじい程の開きがあります。しかも、ほとんどの高齢者は病気や下肢の関節や腰などに何らかの痛みをかかえているものです。人と比較したり、集団で運動する場合などに無理をしたりすることは絶対に避けなければなりません。あくまで、自分の健康と体力の現状に合わせ、楽にできる範囲で行うことが最も重要です。
@運動前には、ストレッチなどのウォーミングアップを10分以上かけて入念に行い、運動後は、クーリングダウンも忘れずに行う
A楽にできる範囲で行い、決して無理はせず、やり過ぎず、こまめに休憩をとる
B水分をしっかり補給する(30分以上の場合は必ず水筒を携帯する)
C空腹時は避ける
D屋外で行う場合は、帽子、服装、着替え、タオルなどに注意し、靴は適当なものを選ぶ
E気温(寒冷、高温は避ける)、明るさ、段差、滑りやすさなどの環境に注意する
◇高齢者のための具体的運動内容と方法
高齢者の健康維持・増進に必要な運動は大きくみて4つあります。
@関節や筋肉の柔軟性を高めるストレッチ
Aウォーキングのような有酸素運動
B大腿四頭筋などの脚筋力や姿勢を維持するための腹筋、背筋の筋力トレーニング
C転倒を防止するためのバランス運動
以下にこれらの具体的方法を中心に前後合わせて順番に述べたいと思います。
1)腹式呼吸
とくに運動というわけではありませんが、呼吸法は古来からの健康法です。高齢者は背中が丸くなってくるため、胸郭や腹部が圧迫され呼吸が浅くなります。お腹を大きく膨らませながら鼻から吸い、口から細く長く吐く深い腹式呼吸を運動前や日常の気がついた時に行い、全身の細胞の隅々まで十分に酸素を送ってあげるよう深い腹式呼吸を心がけましょう。腹式呼吸は体の内側の運動と言えます。
2)良い姿勢づくり
運動以前に、毎日の生活で良い姿勢を意識して、保つことがとても重要です。姿勢が悪いとそれだけで膝や腰の痛みの原因や内臓などの圧迫負荷などになるばかりではなく、歩くことを基本とした生活、運動することそのものが痛みやけがの原因になってしまったり、効果的に行えなくなります。
筋肉が拘宿して固まり、円背になる前であれば、姿勢の良し悪しは意識しているかしていないかで決まりますので、常にリラックスしてまっすぐ伸びた首と上半身を保つよう意識し、全身にしなやかな1本の軸が通っているイメージをつくり、両脚の内側のラインを強く意識するように心がけましょう。
3)日常のストレッチ
高齢者の体は筋肉が衰え、運動習慣がなければさらに拘縮して、例えるなら、常にきつい衣類をまとっているようなものです。まずは、全身の筋肉を「ゆるめる」ことが大切です。ストレッチとは文字通り筋肉を伸ばすことですが、筋肉は伸ばされた後でゆるみ、筋ポンプ作用で血行やリンパ液の流れが良くなり柔らかくなります。それで関節の可動域も拡がり、痛みにくい体になるだけではなく、抱えている痛みなども軽減、解消できます。首、肩、背中、腰、太腿、脛、ふくらはぎ、アキレス腱など、特に股関節、膝関節、足関節周辺の筋肉の柔軟性は大事です。運動前後のウォーミングアップ、クーリングダウンではもちろん、健康体操としても毎日最低でも1回は自分の体をメンテナンスする感じで入念にストレッチしましょう。吐く息を長めに自然に呼吸して、気持ちの良いところまで、伸びている筋肉に意識を向けながら、全身にわたり伸ばしたり、曲げたり、捻ったりすることで十分効果があります。
4)ウォーキング(歩く、散歩する)
歩くことは運動の基本です。歩くことで最低限の体力や身体の運動機能が維持され、筋肉や骨、脳などに賦活刺激として作用するのです。高齢になると歩幅が狭くなり歩行速度が遅くなりますが、これは、足、膝、股関節などが伸びなくなるとともに、大腿四頭筋や下肢三頭筋などが衰えることが原因です。高齢者でも毎日20〜30分程度の散歩を習慣にしたいものです。以下の歩き方のポイントを意識すれば効果的です。
@つま先を上げ、踵から着地し、足の指で地面を握るような感じで、つま先とくに親指でしっかり蹴り、歩幅を広くする
A一歩一歩、膝と股関節をしっかり伸ばし、大股で歩く
B顎、肩、お腹は適度に引き、リラックスして背すじを伸ばす
C腕は特に後ろに意識して大きく振る
D腰(骨盤)の回転を意識し、腰で歩く感じで全身をうまく使って歩く
E呼吸は「吸う、吸う、吐く、吐く」の4歩1呼吸を鼻で行う
Fできる範囲で、速歩、坂道・階段(スローピング)などをとりいれる
Gつま先歩き、踵歩き、ジグザグ歩行、横歩きなどのバリエーションもつけて行う
5)日常の筋力トレーニング
高齢者の筋力でとくに重要なのは、立ち上がったり、階段昇降時に必要な太腿の大腿四頭筋です。この筋は単なる平地歩行のみでは強化できないため、日頃からのトレーニングで鍛える必要があります。
また、姿勢維持や腰痛予防に必要な腹筋・背筋、そして高いところのものを取ったりするための腕、肩、胸の筋力トレーニングの方法について具体的に述べます。
@大腿四頭筋 … ハーフスクワット
立った状態で、背中をまっすぐ伸ばし、膝を90度ぐらいまで曲げ腰を落とし、また膝を伸ばす動作を繰り返す。きつい場合は、膝に手をついて行ったり、椅子に座った状態からの立ち上がり動作を繰り返すだけでも良い。
A腹筋 … 上体おこし
仰向けに寝て、両膝を立て、お腹の上に両手を置いた状態で上体を起こし、また戻す動作を繰り返す。起き上がることができない場合は、お臍を覗く感じだけでも良い。
B背筋 … ヒップリフト
Aと同じ立て膝で寝た状態で、両手を床につき、腰を床から上に持ち上げて、また戻す動作を繰り返し行う。
C腕・肩・胸の筋 … 腕立て伏せ
つま先を床につけての「腕立て伏せ」できつ
場合は、膝を床につけて行うと負荷も軽くなる。また、立った状態で、壁などを使って両腕の屈伸を行っても良い
以上@〜Cを、決して無理をせず、やや楽に感じられる程度の回数を、1日1〜2セット、週に3〜5回程度行えば効果があります。
6)バランストレーニング
高齢になると、体力の中でも平衡性が顕著に低下します。転倒防止のためには、平衡感覚をトレーニングすることが有効です。トレーニング方法としては、毎日、眼を開けて片足立ちを30〜60秒行うとか、両足でつま先立ちを10〜20秒程行えば効果があります。
◇高齢者のための運動:まとめ
生涯を通じて運動を習慣として行うことの大切さとその方法について述べてみましたが、健康の維持増進のための運動は気持ちよく楽しいものであり、決して苦しいのを我慢してやるものではないという意識、意味付けがとても大事です。
人生は<どんなに立派で偉い人でも限りがあります。体を動かすことで、生きる実感や喜びを味わい、心身の充実感をもって、毎日1日1日の無事を感謝ができる生活こそ幸福そのものではないでしょうか。
自然の一部である自分の体に、思いやりと感謝をもって心地よく動かしてあげることで、心身に大自然の鋭気が採りこまれ、柔軟な体を巡り、全身に満ち溢れんばかりにほとばしり、「元気」になるという東洋的なとらえ方からも、生涯を通じて生活に密着した気持ちのよい運動を続けていきたいものです。
近頃思うこと
■栄養士さん(会員)へ
顧問 井上一也
◇発刊以来5年目の"栄養かわらばん"
日本臨床・公衆栄養研究会は、発足以来ほぼ13年が経過しました。私は発足以来ずっとこの会の運営に係わり、会の機関紙として1997年に「栄養かわらばん」を出すことにしました。会の広報活動と栄養かわらばん発行を目的とした広報部をつくり、広報部の理事さんと共になんとか13号まで続けてきました。現在、広報部には木村氏(広報部部長)、菅野氏、長友氏、吉永氏の理事さんがおられ、私は当会顧問としてお手伝いをしております。献身的に協力して頂いた理事さんでいろいろな都合で退かれた方に椿氏、吉田氏もおられました。
◇会議の決まり文句「求む栄養士の部員」
この広報部の面々が集まり次の栄養かわらばんをどのようにしようかと相談をするとき決まって話題になる事があります。それは栄養士の方々が今何に興味を抱いているのか。どんな情報を欲しがっているのか全く分からない。というのは私も含めて広報部は医師、会社経営、書物の編集等などに携わる人達で一人も栄養士がいないのです。
栄養かわらばん創刊のころは、出し始めれば会員からそれなりの意見や投稿があるだろうと考え、ずっと期待してきました。5年経った今までに「栄養かわらばんの感想」一つ聞きません。当会には、このような機関紙的なものは不要なのだろうか。
日本には数の上では非常に多くの栄養士がいて医師の何倍にもなります。しかし栄養士の動きがマスコミに取り上げられることは殆どありません。何も動いておらず自分一人だけのために動く人たちばかりだからです。何故、栄養士同士は、団結して社会に対し発言をする意欲が無いのでしょうか。
広報部の理事さんを見てもお分かりになる筈ですが、1回の栄養かわらばんを出すために数回集まってもらわねばなりません。皆非常に忙しい人達ですが、都内だけでなく千葉・埼玉からも集まって来てくれます。何故会員の栄養士から意見ひとつ、投稿ひとつ無いのでしょう。栄養士の社会的地位が低いと嘆くだけで社会に働きかける意識がない栄養士だけでは、何年経っても栄養士の地位は上がりません。
私は練馬区医師会の理事を十年ほどしましたが、丁度、阪神大災害の直後に久しぶりに理事になり、練馬区の災害対策の責任者になりました。災害発生時の医師の対応を決め、色々な職種のチームを作りました。私としては当会の顧問と言う事もあり、チームに栄養士を入れるべきだと主張しましたが、看護婦で十分という意見が多く、栄養士は責任者の私が頑張っても相手にされませんでした。
この例だけでなく、一般に栄養士の必要性はあまり認められていないのです。
厚生省も栄養士は作ったがもてあまし、管理栄養士などと栄養士を馬鹿にしたような制度をつくり栄養士を発奮させようとしています。
当会のみなさんだけでも栄養かわらばんを通して社会にアピールしてみませんか。会員の栄養士さんにはあまり愉快でないことを書きましたが、ひとえに皆さん方の意識を変えて貰いたいためであります。
なにを言うか!!と発奮して頑張ってもらえれば幸いです。
編 集 後 記
■新しいダイエット法の試み
最近のマスコミを騒がしている話題を食の面から見た場合、三つのテーマが顕著だ。
一つはグルメについて、
二つ目は健康
三つ目はダイエットについて
これらのテーマの内、女性のダイエットに対する関心は止まるところを知らないようだ。今、さまざまなダイエット法がマスコミを通して広く紹介されているが、私の妻がその中のあるプログラムを実践して驚くべき成果を出している。当人はみるみるうちに体重が減ってゆくためにそのプログラムの完全な信奉者となっており、さらにそれを目撃した知人・友人が、次々と後を追っている状況となっている。
それは、既に日本でも紹介されているようだが「ドクター・アトキンズ低炭水化物ダイエットプログラム」と呼ばれている。内容を一言で描写すると、プログラムの名称どおり炭水化物と糖分を食生活からほとんど除去してしまうダイエット法である。具体的には、大量の肉、魚、卵、十分な脂肪分、決められた種類と量の野菜、果物、ナッツ類を中心とした食生活を続けることである。
このダイエット法のユニークなところは、プログラムで指定された食材であれば、お腹一杯食べても良いということと、こうした食材を使ったメニューが豊富なことである。従って、従来のダイエットにありがちな空腹に苦しむことが全くない。アルコールにしてもビール以外は自由に飲めるため当人はダイエットをしているという感覚がないため長続きしている。
今年の1月1日に開始して丁度3ヶ月経過したが、9kg減という結果を出しており現在も体重が減り続けている。当人は以前と同じように元気に過ごしており、あと7kgほど落とした後メンテナンス(体重維持)プログラムに突入すると張り切っている。
さて、ここで私は大きな疑問に直面している。つまり、栄養学的にみてこのようなダイエット法は、長期的に見た場合健康に影響を及ぼさないかということである。読者の皆さんで何か情報やご意見がありましたら是非とも<広報部宛に>お知らせいただきたい。ダイエットで体重は減ったものの、生活習慣病ならぬ体重が減るだけのダイエット病に罹っても困るからである。もっとも、もし健康に影響を及ぼさずお腹一杯食べてダイエットができるなら、このプログラムはまさに女性のための食生活バイブルになりそうである。 (広報部理事 長友信)